第10話

「ふん! そんな武器があったって」

「『青に属するもの』・巨大化わあ、おっきい


 ぐんぐんと巨大化していくラム・ダオ。世界の抑止力たちよりも上をいったところで成長を止めたそれを平然と持ちながらナゴミは。


 にぃっと唇の端をつりあげた。




「『目を合わせて』」


 ぼうっとラム・ダオに描かれた目玉、その瞳の部分が青く光る。


 吸い込まれるように視線はその目玉へと向かっていく。それは1人の例外、ナゴミをのぞき反逆者、世界の抑止力たち、紋章たち、ハイリッヒでさえもとらわれたかのようにその瞳を見ていた。ただぼんやりと、空気すら止まったような世界の中で。



 それと同時に。



 ラム・ダオに目を合わせてしまった世界の抑止力たちが、なぜかかちんと髪の先からつま先まで石化し次々と墜落してくるところを。


 ラム・ダオを振り回し砕くことで塵へと返していく。それ以外、ラム・ダオの届かないところでも墜落した衝撃で石像と化した抑止力たちは砕け散っていく。


 ナゴミの最初に張った結界の中にいて、石像が勝手に避けていく中。ハイリッヒはぐっとこぶしを握った。


 何を嫁ばかりに戦わせて自分は安全なところにいるのだ。


 普通逆だろうと。


「和、この爺が今行くぞ!」

「やめてくださいゴートル様、こんな石像の雨の中行ったら死んでしまいます!」

「放さんか!」


 そんなギャグめいたハルカとハイリッヒのやり取りに、ぶっはとナゴミが吹き出す。


 まだ笑いが収まらないまま、反逆者の前までナゴミは歩いて行って。自慢げに笑う。ちなみにこの時もラム・ダオは振り回しっぱなしである。




「これさぁ、妹との合作なんだよね。うちの可愛いやこちゃんとさぁ。ちょうどよくもラムに目玉があったから力込めてくれたんだ。だからキメラの力が使えるってわけ」

「なっ、なっ」

「これで終わりだね? ごしゅーしょーさまでーす♡」


 語尾を可愛らしく上げながら、ちらりと上を見上げて落ちてくる石像がないのを確認してラム・ダオをまたピアスに戻してナゴミは右耳につけた。


 と。


「がっ」

「あ」


 まだ残っていたらしい石像の下敷きにされた反逆者に、やっべとナゴミが焦る。世界の抑止力対策本部からはクロだったら捕まえろと言われているだけで死んでてもいいとは言われていない。


 もし自分が仕事に失敗すれば、それすなわち自分の飼い主でもある青の女王・椿己みかんの評判にかかわるわけで。まぁ、生きて捕らえろとも言われてないのだが。


 全ての抑止力たちが塵にかえったのを見届けてから、紋章たちは反逆者に駆け寄る。


 幸運なのか不運なのか。石像の下敷きにされつつも怪我はなく、動けないだけで意識はあった反逆者は取り囲まれ真っ青になる。


「お、俺は主だぞ! 助け」

「そのような世迷言、よくぞ言えたものよな」

「工房は合言葉がなければ、本部の人間だろうと決して入れません。奴らに教えたのですね?」

「この戦争において、あんたはもう主じゃない。ただの反逆者だ」

「・・・っ! 誰がお前らの世話してやったと思ってる! 受肉させてやったのは誰だ! 言ってみろこの恩知らずの化け物共が!」

「うるせえなぁ」


 それ以上しゃべると、その腕なくなるけどいい? いつの間にか男の近くへと来ていたナゴミの軽やかな口調に、男は押し黙った。紋章たちの視線がナゴミに流れる。


 反逆者の青ざめた額から一筋の汗が流れるも拭うことなどできない。ただ石像の下で震えるばかりの男に、ナゴミは小さくため息をついた。




 そして、自分を見ている紋章たちを振り返ってにこっと笑う。


「とりあえず、またいつあいつらが来るかわからないから本部に行くよ。危ないしさ。ここにいたい奴とかいる? あ、この男も本部に連れて行くから」

「なぜ! 置いていけば」

「それが俺の仕事だからだよ。・・・全員俺と本部に来るのでいい?」

「もちろんじゃ」

「嫁っこだしな」

「ゴートル様返事が早いです」

「可愛い和に誘われて行かぬ選択肢はないのぅ」

「「この嫁馬鹿」」

「いやぁ、照れるのぅ」


 褒めてないから。

 満場一致だろう心の声がナゴミには聞こえた気がした。

 和やかな雰囲気となったそこで、ごきんと首を傾けると。ナゴミは反逆者へと向き直る。


「『青に属するもの』・縛つかまえちゃうぞ

「ぐっ」


 しゅるんとどこからともなく現れた青いロープが男の手と足を八の字に縛り上げる。ぐっとうめいたきりしゃべらない男はいまだナゴミの言葉に怯えているらしかった。


 最後に石像から解放してやろうかと思ったが、その視線が面白くないので石像ごと縛り上げて、よいしょと持ち上げる。


「さて、そろそろ行くからみんなついて来てくれる?」

「わかった」

「もちろんじゃ」

「じゃ、行くか」


 そう言って歩き出したナゴミは、ふと足を止めた。

 そして自分のすぐ後ろを歩いていたハイリッヒを振り返る。いきなり振り返られて目を白黒させているハイリッヒに。


「俺、望月和もちづきなごみ。青の女王のいぬやってます。よろしくね、旦那様」


 ちゅっと頬にキスを送ると、まるで何もなかったかのようにまた歩き出した。頬を押さえうつむいて震えているハイリッヒはどんどん仲間に追い抜かれていき殿を務めていたハルカに追いつかれてしまった。ハルカが心配そうにハイリッヒの顔をのぞき込む。

 と。


「に、和やー!!」

「ゴートル様、落ち着いてください」


 裂け目の残る青空の下、走って和の側に行こうとするハイリッヒを止めることになった。

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