リフレイン

 注射器を拾った。


 学校の帰り道、夕方、いつもと同じ、街の外れの路地だった。

 夕日が丁度私の歩く真正面に来て、酷く眩しい。

 前なんてよく見えない、逆光しか眼に入らない。

 いつもと同じ、学校の帰り道に、それは有った。


 足に、かつん、と当たった。

 どうして踏み潰してしまわなかったんだろう。

 どうして蹴飛ばしてしまったんだろう。

 わからない。でも、それは、

 足に、かつん、と。

 当たったのだ。


 手にとってみると、それは映画で(B級のホラーや医療ドラマなんかで)よく見るタイプの注射器だった。シリンダーに、ハサミみたいに指を入れる穴がふたつ付いている。

 その形が何だかわざとらしくて、私にぴったりだ、って思った。

 よく見ると、それは欠陥品で(シリンダーに小さなヒビが入っていた)ひょっとすると私が蹴飛ばしたから壊れたのかもしれないけど、そういう所も、私にぴったりだ、って思った。


 だから、家に持って帰った。


 家の洗面所で、注射器に水を入れてみた。

 そして、水を押し出してみる。やっぱり使えなかった。

 針の穴と小さなヒビから同時に水が滲み出る。

 でも、その様子が少し面白かった。


 お風呂に入って、一人で御飯を食べて、自分の部屋に戻った。


 なんとなく注射器を手に取る。

 いいものを拾ったと思う。

 私はまた、少し嬉しくなった。


 別にそんな趣味はないけど、パジャマの袖をまくった。

 別にそんな趣味はないけど、腕に注射器の針を射す真似をしてみた。

 別にそんな趣味はないけど、腕に注射器の針を射した。


 ぷすり。


 ゆっくり、ゆっくり、血液を抜き取る。


 くくくう。


 針を腕から抜いて、血液を押し出す。


 うううぅ。


 針穴から、血液が飛び出す。


 ちゅうう。


 小さなヒビから、血液が滲む。


 だらだら。


 もう一回。


 ぷすり。

 くくくぅ。

 うううぅ。

 ちゅうう。

 だらだら。


 もう一回。


 ぷすり。

 くくくぅ。

 うううぅ。

 ちゅうう。

 だらだら。


 私、その様子が可笑しくて、キャラキャラ笑った。

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