うそ

「愛してるよ」

「……どうしてそんなこと、いちいち口に出すの?」

「口に出して欲しくないのかい?」

「出して欲しくないわ、そんなこと」

「お前、変わってるよな」

「あなたも変わってるわよ。臆面もなくそんなこと言って」

「ところで、来週のお前の誕生日、何が欲しい?」

「それを私に尋くかなあ」

「欲しくないものもらっても、嬉しくないだろ?」

「いや、それは……」

「だろ? だったら……」

「……違うの」

「違う? 何が?」

「欲しくないものでも、嬉しいわよ。だって、あなたがくれたものだもん。

 でも……欲しいものだともっと嬉しい」

「じゃあ、尋いてもいいじゃないか」

「尋いて欲しくないわ。それだったら、欲しくないもの黙ってくれた方がいい」

「訳がわからないよ」

「だってそういうの、わざわざ言葉にすることじゃないでしょう?

 プレゼントをくれるのはもちろん嬉しいわよ。

 でも、黙って、無言でくれるともっと嬉しい。

 そして、それよりも……。

 私が欲しいもの、ちゃんとわかってて。

 なにも言わずにくれたりすると、最高に嬉しいの」

「我侭だなあ」

「そうじゃないわ。言葉じゃなくて、心で通じてるって気持ちになれるの。

 私はそれが一番いいわ。何よりも、一番」

「そんなもんかなぁ」

「そうよ。あなたは何から何まで言葉にしたがるけど……。

 言葉で確認するって、そこにクッションがあるってことでしょう?

 心から言葉にして、言葉を受け取って、それを心に伝えて。

 ややこしいし、難しいわ」

「会えない時はしょっちゅうメールしてくるくせに。それもお前から。

 メールだって『言葉』じゃないのか?」

「そうだけど。……でも、それとこれとは別なのよ」

「面倒くさいなあ」

「ほら、またそうやって言葉にした」

「……悪かったよ」

「あなたが面倒だって思ってることくらい、私にはわかるもの。

 だからいちいち言葉にしなくたっていいの!」

「じゃあ、謝りたい時は?」

「キスして」

「それだけでいいのか?」

「それだけがいいの」

「わかったよ」


「……ところでさ」

「なあに?」

「今日、エイプリルフールだって覚えてたか? お前」

「そう言えばそうだった。でも、それがどうしたの?」

「いや……『嘘』も『言葉』だなって思って」

「そうね。嘘も言葉。心と違う言葉ね」

「なあ」

「なに?」

「別れようか」

「あはは、それがエイプリルフールの嘘?」

「さあ、どうだろうな。

 俺の態度で当ててみなよ。……わかる?」

「嘘ね」

「その理由は?」

「ふふ……だってあなた、別れたいなんて思ってないでしょ?

 それくらいわかるわよ、態度で。もう長いんだもん。

 恋人同士な上に、幼馴染みだしね」

「はは……さすがだな」

「そうよ。簡単よ。だってあなた、顔にすぐ出るんだもの。

 あなたのエイプリルフールの嘘は、最初のやつ」

「最初?」

「ええ。『愛してる』っていうやつ」


「……」

「どうしたの?」

「……」

「何か言ったら?」

「……」

「肝心な時は黙っちゃうのね」

「……」

「つまらない男」

「……」

「昔からそうだったわ。

 何となく付き合うようになっちゃったけど。

 付き合ってみたら何か変わるかと思ってたけど。

 やっぱりあなた、面白くもなんともない」

「……」

「あ、そうだ」

「……何、だよ」

「私、妊娠したの」

「え……?」

「あなたの子じゃないけどね」

「……おま、え」

「嘘よ。あなたの子よ」

「……」

「だから堕ろそうと思うの」

「……」

「嘘よ。産むわ」

「……」

「いい機会だから、結婚しましょうか?」

「……」

「嘘よ。結婚なんかしたくない」

「……」

「さて、どれが嘘でどれが本当でしょう?

 わかるわよね? 私を愛してるなら」


 ※ ※ ※


「なーんちゃって」

 彼の表情が面白かったので、私は満足してにこやかに微笑んでみせた。

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