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#25

 斎藤良子は夜の第9地区にいた。




 先日、第9地区港埠頭で締め上げられたSCARの一味のことと、クラブ”ヘヴン”でのヤクの売人が検挙されたことについて違和感を感じていた。


 これまで”第9地区”に対して・・いや”SCAR”に対して二の足を踏んていた九十九警察がここにきて2件のSCAR絡みを検挙、斎藤からしてみたら違和感しか感じないのも当然だった。


 それには理由があり、警察はこの2件に関することで”黒ずくめの人物”の存在を発表していない。





 メトロポリタンテレビに勤務するアナウンサーの斎藤は入社からずっと報道志望だった。

 しかしその美しい容姿から局はアイドルアナウンサーとしてバラエティなどで起用していた。

 30歳を目前に控え斎藤は報道への移動を申し出ており、幸いにも今年入社の新入社員に”ポスト斎藤”と呼ばれる逸材が入った事により斎藤の希望は叶ったのである。

 最終的には真実の報道を志すキャスターになることが彼女の目標だ。


 そんな彼女がこの違和感に飛びつくのはもはや必然だった。




 斎藤は夜の第9地区一人でいた。


 第9地区の怖さは十分分かっていたが、それよりジャーナリズムの血が彼女をこの地へと向かわせていた。

 その斎藤の背後に人影が現れた。

『おお、これはまたべっぴんさんが一人でこんな所にいるとは珍しいなぁ』

 斎藤はすかさず振り返ると如何にも悪そうな男がその場にいた。

『俺の相手してよー』

『やめてください!』斎藤は抵抗した。

『っていうかこんな所に一人で来るのが悪くないか?襲ってくれって言ってるようなもんだぜ』

『警察がくるわよ』

『警察?来るわけないだろ、あいつらはここを見放してるんだぜ』

『その警察が最近あなた達を捕まえてるじゃない?』

『あれは警察仕業じゃねーよ』

『え?』

『黒ずくめの野郎が最近俺達のシマを荒らしているだけだ』

『黒ずくめの野郎??』

『そんなことはどうでも良いだろ、俺と遊ぼうぜ』

 男はそう言うと斎藤の腕を力ずくで掴み寄せた。

『やめて!』

『ここで叫んだって誰も助けにこねーぜ』


 斎藤はこの時に一人で第9地区へ来たことを後悔した。

 しかし、次の瞬間腕を掴んでいた男が崩れ落ちた。

 斎藤は一体何が起こったのか分からずその場に佇む。


月明りを背に黒ずくめの人物が立っていた。


顔は鼻まで覆い隠す大きなマスクをし、首元にはスカーフみたいな布切れを巻いており、胸に黒い防具らしきものを付け、全身はピッタリタイプのボディスーツを身にまとい、腰のベルトにはこん棒を2本突き刺していた。


【女性が一人で歩く所じゃない】


 黒ずくめの人物は一言斎藤に告げると倒れた男の元へと向かって行った。

 男の胸ぐらを掴み上げると壁に押し当てた。

【ファントムはどこだ】

『知らない・・』

【誰が知っていいるんだ】

『分からねえ・・ほんとに知らないんだ・・ファントムに会えるのはほんの一部の人間しかいないからな』


(こいつも知らないか・・)


 黒ずくめの人物はその男を縛り上げると近くの電柱に括りつけた。

『あなたなの?』斎藤は黒ずくめの人物の背中越しに話しかけた。

 楓は振り向くことはなかったが括り付けている手を止めた。

『あなたが最近SCARを捕まえてるの?』

【九十九警察が捕まえていると報じている】

『警察はナインゲートを見放してるわ、動く訳がない』

【すべてではない】

『え?』

【九十九警察の中にも信念を持った人はいる】

『でも貴方はこうしてここにいるわ』

【これ以上は探るな、第9地区は危険だ】

 そう言うと楓は腕からワイヤーを伸ばしその場から消えていった。



 斎藤はその姿を見ながら一言呟いた。



『何かが起こってるわ・・ナインゲートで』

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