captur#2

#5


 九十九中央銀行




 平日の昼下がりでも多くの人が出入りする九十九市最大の銀行である。

 だが今日はその賑わいがなく、行内は静まり返っていた。

 それもそのはず行内中央に職員、客、警備員が集められており、そのすべての人の手足は結束バンドで結ばれ床に座らされていた。

 その周りをピエロの仮面を被った者や、サルの仮面を被った者など4名ほどの人間が囲む様に立ち銃を向けていた。

 恐怖で震えている人質達と打って変わってお気楽な口調で『まぁー運が悪かったと思って後悔するんだな』1人の男が話し出した。

 その男はオペラ座の怪人を彷彿とさせる白いハーフマスクをつけていた。

『ファントム、こっちはOKだ』奥の金庫室からガスマスクを被り古びたフードの付いたコートを着ている男とその他4人の男達が金の入ったバックを両肩に担ぎながらマスクの男に言った。

『よーし、じゃあ退散するか』ファントムと呼ばれていた男が号令をかけると他の者たちが一斉に退散準備にかかった。


 裏口に停められていた1ボックスカーに金の入ったバックを持った男たちが雪崩れるように乗り込む。

『先に乗れ、デスマスク』ファントムはガスマスクを被った男を"デスマスク”と呼び、『ちょっとそこで待ってろ』と続けて言った。

 デスマスクが車に乗り込むとファントムは1ボックスカーのスライドドアを閉め、行内へ歩いて行った。

 行内に戻ると4名の部下たちが『準備できましたか?』とファントムに話しかけてきた。

『ああ、ただ車にはあと1人しか乗れない』ファントムはおもむろに話し出すとためらいもなく1人の仮面を被った男に銃を放った。

 他の4人がきょとんとしている隙にファントムは続けて他の4人にも銃を放った。


 たった5発で部下5人の息の根を止めた。


 人質たちは最初何が起こったか分らないといった表情だったがファントムの異常性に気づき再び恐怖の表情へと戻っていった。

 そんな中、1人の男が声を上げた。

『悪は必ず裁かれるぞ!』警備員の男だった。

 ファントムは背中越しから聞こえた声に振り返る。

 警備員の男は尚も勇気を振り絞って続け『あんたらが逃げたってここにいる人たちがあんたの顔を覚えている顔半分を隠したって身元はバレるぞ!』


『だったら話せなくすればいい』


 ファントムはそう言うと着ていたジャケットのポケットから黒い小さな箱を取り出し、中央に集められている人質たちの前に置きその場を立ち去った。

 車に戻るとファントムは『出せ』と一声かけた。



 少し進んだのち、ファントムはスマートフォンを取り出し何やら操作し始めると、九十九中央銀行から大きな爆発音が轟いた。



 通報を受け、現場に駆け付けた田所と木部は言葉を失っていた。

 先に着いていた消防隊が消化活動を行っており救急隊員が担架で中に居た人たちを運び出していた。

 救急隊員の1人が田所の元へ近づき『中に居た人たちは全員ダメです』それは死を意味している。

 田所は無残な姿と化している九十九中央銀行の玄関口をただ眺めていることしかできなかった。

『発見された遺体には手足を結束バンドで縛られた跡がありました』

 救急隊員は続けて『それ以外に男4人の死体とその近くに拳銃らしき残骸がありました』

 木部が田所の所に近づき『金庫が破られてました、強盗ですね』

 やがて別班で動いていた岸本美和も現場に合流し惨状を目の当たりにしていた。

『田所さん!』

『岸本か』

『SCAR(スカー)ですか?』

『おそらくな』

『白昼堂々とやってくれるな』木部は悔しさを抑えきれないような感じで吐き捨てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る