#4

 九十九第3地区はベットタウン及びショッピングモールや飲食店などが軒を連ねる商業地区となっており庶民派居酒屋から高級クラブやオシャレなバーと多種多彩である。


 その第3地区にあるバー"CAVE(ケイブ)”


 楓はカウンターでブランデーを飲んで美和を待っていた。

『飲みすぎはダメよ』楓の後ろから声が聞こえた。 美和だ。

『もともと強くない』

『久しぶりに3人揃うな』

 カウンターでグラスを拭いているマスターでもある相澤信吾が声をかけた。

 白髪でスラリとしたスタイルのダンディーな男だ。

『ご無沙汰してました』楓。

 "CAVE”は楓と美和が初めて出会った場所であり、マスターの信吾とは成人式のあと最初に入った時以来の付き合いでもある。

 楓と美和は実際の年齢こそ聞いていないが人生の先輩なのは間違いなく、通い出してからというもの多くの悩みや愚痴などを話してきたほどの仲になっていた。

『ニュースで知った時はビックリしたけど、元気そうで何よりだ』信吾は他の客のカクテルを作りながら話した。

『まだ死ぬ訳にはいかないもんで』

『美和は、何飲む』信吾は尋ねた。

『楓と同じのお願いします』


 久々の再会で眠っていた間の近況や、その他世間話が一段落したころには店内の客はほとんどいなくなってた。

 この時を見計らってたのか美和が切り出した。

『ところで楓、橋の建設はどうなるの?』

『どうなるってなんだよ』

『あの事件で少し考え直すのかな?って思って』

『何言ってるんだ、その逆だよ。 治安が悪くなってるならそれころ早急にやらないと、それにもう基礎工事は始まってる』

『"ナインゲート・ブリッジ”で本当に第9地区は救えるのよね?』

『ああ、必ずナインゲートは蘇らせる』

 楓と美和が出会った4年前にはすでに岸本美和は九十九署の強行班係に属していた刑事だった。

 カウンターでマスターの信吾に信念を貫いた正義が通せない歯がゆさを愚痴っていた。

 岸本美和もまた九十九で生まれ育った人間だからこそ街の平和を強く願った一人である。

 楓はテーブルで1人飲んでいたが彼女の声が耳に入り、当時同じく九十九への思いからナインゲートを救いたいと考えていた者として、またお互い同い歳として共感できる部分を感じた。

 楓から声を掛け、2人して九十九へのそしてナインゲートへの思いを語り合った。

 それから何度か"CAVE”で会うようになり、2人は付き合うようになった。


『楓が突然言い出したのよね、"ナインゲートに橋を掛ける”って』

『ナインゲートの人たちに今必要なのはまた働いて生きていくと言う環境なんだ』

『私たち警察が悪を捕まえ・・・』

『僕たち経営者が働ける環境を作る』

『"それが融合した時、ナインゲートは蘇る”ってことだな』と信吾が締めくくった。


 2人は"CAVE”を出て夜の街を歩いていた。

『そう言えば昼間、ナインゲートの犯罪が増加してるって言ってたけど大丈夫か?』楓は唐突に聞いた。

『うーん・・』美和は曖昧な返事で答えた。

 すると楓の方から切り出し『新たな犯罪組織か?』

『どうしてそれを?』

『事情聴取の時に言ってたよ』

『警察はナインゲートを見放してるわ、このままだったら腐敗はさらに進み治安も今以上に悪くなる』

『全員じゃないだろ?美和は見放してない』

『あと田所さんもね』

『・・・あの刑事さんか』

『あの人も九十九に潜む闇に立ち向かおうとしてるわ』

『どーだかねー』

『え?どうして』

『あの人はどうやら橋の建設に反対のようだ』

『なかなか楓の考えをすぐに理解できる人は少ないと思うけどなー』

『そうなのかな?』

『私も最初聞いた時はすぐには理解できなかったわ』

『意外だなー』

『でも田所さんもいずれ理解してくれると思うわよ』



 九十九の夜が深く沈みつつある中、楓と美和は家路へと向かっていった。

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