#3

 ≪T都九十九市≫


 九十九はT湾中央に存在する洋上都市である。

 九十九市は大きく9地区で構成されており、街の第1地区から第3地区までを主にベットタウン、商業施設などとして構成されており、第4地区から第8地区を

 企業ビルや工場などが占めている。

 九十九市開発時、第9地区の開発が遅れたことと反比例してその他が急速に発展したことによって第9地区とその他の地区との格差が広がった為、街の中心で住めなくなった者たちが集まる地区となり、貧困からくる犯罪も増加したことで治安悪化に拍車をかけた形になった。 

 これが≪九十九唯一の闇≫として語られている由縁である。

 しかし第9地区を除くその他の地区は80年代に急速に発展し、今や商業都市でもあり、都心で働く人たちのベットタウンでもある生活環境に優れた都市へと成長した。

 その最大の理由が3県に架かった橋の存在が大きいとされている。

 九十九に架かる橋はT都からはもちろん隣接するK県からとC県からも掛っている為、多くの企業が九十九へ移転しているという現状がある。

 企業の本社や工場などが九十九へ移転し都心より大きな建物となり生産性が上がり雇用が増えるといった好循環となり九十九市自体も大きく発展していった。

 その中でも九十九で大きな存在となっているのが≪鳥飼インダストリー社≫である。

 九十九発展の最大の功労者でもある≪鳥飼インダストリー社≫はエレクトロニクス、情報通信、建設、応用科学、新エネルギー・環境、輸送、インフラなどを取り扱っており九十九のみならず日本でも有数の巨大企業となっている。

 現在掛っている3つの橋を建設したのが紛れもない≪鳥飼インダストリー社≫なのである。

 九十九に架かった橋は縦に2段構造となっている。

 上段を自動車道となっており下段が鉄道が通る線路となっている。

 そして3県に架かったすべての橋の構造がそうなっている。

 当時、ほとんど過疎化状態であった九十九の可能性をいち早く目をつけた鳥飼総一郎が≪鳥飼インダストリー社≫(当時は鳥飼産業)を九十九へ移転、

 まずはT都から1本の橋を建設した、ここからすべてが始まった。




 目覚めてからの後遺症などは全くなく医師の判断でも正常と診断された為、楓は意識が戻ってから約1週間後に晴れて退院となった。

 総一郎の運転する車の後部座席から九十九の街並みを横目で眺めていた。

 すでに"ナインゲート・ブリッジ”の建設は始まっており、現在はその初期工事といった段階だった。

 骨組などが作られ橋の全貌が少しばかし垣間見れた。

 さらに"第9地区”の住民の雇用も始まっており、少しづつではあるが"第9地区”の住民たちも希望を感じていた。

 それを実感しながら楓は改めて強く第9地区の復活を決意した。


 その時、眺めていた景色の中に女性の姿が目に入った。


『父さん、停めてくれないか』

『どうした?』

『美和だ』

 総一郎は車を脇に止めた。

 楓は車から降り、『美和!!』と呼びとめた。

『・・楓?』

 美和と呼ばれた女性は振り返り楓も元へ駆け寄った。

 肩口まで伸びている黒髪が似合い端正な顔立ちをした美しい女性だった。

『退院したのね』

『ああ、いつまでも休んでられないしな』

『そうね、あなたには大事な仕事があるものね』

『でも事情聴取には君が来ると思ったんだけどな』

『そのつもりだったけど、ちょうど事件の通報があったのよ』

『ナインゲートか?』

『ええ』

『あなたが眠ってる間に5件の死亡事件よ。いくら治安が悪いと言われていても少し多いわ』

『そうか、大変だな・・ところで今夜は時間あるかい?』

『ええ、夜は大丈夫よ』

『久々に一杯やらないか?』

『じゃあいつもの所でね』

『ああ』

 そう言って2人は別れ、楓は総一郎の待つ車の後部座席に再び乗り込んだ。

『美和さんも大変そうだな』



『ああ、ナインゲートの治安はさらに悪化しているようだ』

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