#2
西日が射しこむ病室は少し暖かく、冬なのに暖房の必要はなかった。
田所は続けて『捕まったのは第9地区の住所不定無職の男です』
『そんな男がなぜ美木下さんをねらったんですか?』
『理由は明確ですよ』と木部が割って入り、
『事件を起こして刑務所へ行けば、生活に困らない。誰でもよかったんです、犯人にとっては』と続けた。
さらに木部は続けて『事件が大きければ大きいほど罪が重ければ重いほど彼らにとっては好都合なんですよ、それだけ刑務所に居れて食うに困らないですからね。』
『”第9地区”の貧困はもはや限界点を超えています、あそこで生きるより刑務所の方が楽だと考える人間が現われてきているんですよ、急速に発展した九十九の唯一の闇ですね、”第9地区”は』と田所が付け加えた。
『それを止めるのが警察の役目では?』と楓はくってかかった。
『犯罪撲滅には務めますが、貧困は我々ではどうすることもできません。ただ、事件が起こる可能性があることを止めることはできます、”第9地区”に橋を建設することは考え直した方がいいのでは?”第9地区”は貧困から来る犯罪も増加の一途を辿っています、さらに最近では怪しい犯罪組織なども確認され地区はかなり危険度を増しています。そこへT都から橋を通し、”第9地区”を入口にするというのはあまりにも危険です。』
『だからこそ橋が必要なんです。』
楓は続けて『あなた方には貧困をどうすることもできないでしょうが、僕はそんな"ナインゲート”の住民を貧困から救える』
"ナインゲート”とは”第9地区”の通称である。
『“ナインゲート・ブリッジ”、僕はそう名付ける予定です。』と楓は言い、さらに続けて話した。
『橋の建設によって第9地区の人々の雇用を増やそうと考えています、彼らにはまた働いて生活が出来る環境を作ってあげたいんです。』
『それがあなたの言う“貧困から救う”という事ですか?』と田所が聞いた。
『ええ、橋の建設には雇用が必要です、もちろんそのすべてをナインゲートの人たちだけでは出来ませんので他県からも人が多くやってきますそうなればナインゲートで商売をしている人たちへの潤いも与えます、その好循環を創り上げていきたいんです。』
『街の治安はどうするんです?人が増えればそれだけ犯罪も増えると思いますけどね』と田所がチクリと刺した。
『それを守るのが警察でしょ? 私たちも細心の注意ははかり危険のないように努めます。ただ根本となる組織壊滅にはあなたがたの力が必要です。』
『ずいぶん勝手な話だな』と木部が吐き捨てた。
『おい、木部、刑事たるものの言い方か?気をつけろ』
『すみません』
『田所さん、あなた生まれはどこですか?』と楓は唐突に聞いた。
『新潟ですが・・』と質問の意図が分らず困惑しながらも答えた。
『木部さんは?』
『静岡です』木部も田所と同じリアクションで答えた。
『僕はね、この九十九で生まれ九十九で育ったんですよ、だからこの街を完全なる平和な街へと創り上げたいんです。"ナインゲート”がこのまま≪九十九唯一の闇≫として残っていく事が堪らなくて仕方がないんですよ。』
さらに楓は続けて『そして僕は今、街を救える立場にいるんです。鳥飼インダストリー社の社長として自分の専門で街が救える位置にね。』
『そうですか、まぁ今回は橋の建設の議論をしに来た訳ではありませんので、今日はこの辺で失礼しますよ。』と田所が椅子から立ち上がった。
『僕は"ナインゲート”を救いたんです。』と楓は強く田所に訴えた。
『私はその呼び方が嫌いです。』
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