part.3-2【スライムに自己犠牲大爆発魔法ルート】
「それじゃあ次はドランのチームが行く番だな」
「いよいよか。不安しかないな……」
数チームがダンジョンに入り、ついに僕たちのチームの番になった。
僕とアシテッドはスピードを求めているため一番手になりたかったのだが、ここはドランチームに入る乱数と連動しているため一番手になるのは少し難しい。
恐らくアシテッドも頑張って調整はしただろうが、「ここを最適化するのは私のプレイ環境じゃ五年かかりますわね。他で最適化できますし、今回はそっちを攻めて記録を更新しましょう」と言ってたので、今回は諦めたと思う。もっといい乱数調整方法が欲しい所だ。
「よーし。それじゃあドランたちは入る準備をしろ。俺が合図したら、すぐに入って……」
「――ヂュエヂュエヂュエヂュエヂュエヂュエヂュエヂュエヂュエ!!!!!」
教員がドランを準備させようとしたその時、アシテッドはいつものカサカサ動作でスタートした。見かけはあからさまにフライングだが、僕も良く使う基本テクニックなので問題ない。まぁ、ドランに毎回突っ込まれると言う欠点のあるテクニックだが。
「おい待て、アシテッド! 脈絡なくフライングしてんじゃねぇよ!?」
「大丈夫だよドラン。この試験、実は開始時間がずれているからセーフなんだ」
「まだ準備のセリフ言い切ってもいなかっただろ! ズレって問題じゃないだろ!? あと、あのスピードは私達じゃ追いつけねぇだろ!?」
「え? 僕たちは仲間キャラだから、先導のキャラには普通に追いつけるでしょ?」
ドランのツッコミに対応して好感度を上げたいところだが、時間の無駄だ。僕とルッツはアシテッドと同じ動作法でダンジョンの中へと入る。カオスな移動をする先導キャラにも忠実についていくのが、仲間キャラの鉄則だからね。仕方ないよね。
「いやいやいや、きもすぎるだろその動作! しかもなんでルッツもそれできんの!?」
「なんか割とできますよ、ドラン様」
「割とできちゃいけない技能だからな!?」
しかしドランは常識的な足の速さなので、付いていけてないようだ。正直、彼のこういう常識性こそがこのスピードランで一番邪魔な要素である。なので完クリルートじゃない場合はドラン自体をサクッと消すこともあるのだが、その件は本人には黙っておこう。
先導のアシテッドは洞窟内をある程度進むと、一番後ろで必死についてくるドランへ今後のルートを指示し始めた。
「ドラン様ー! まずは右の通路に進んで、壁をすり抜けましょう!」
「しょっぱなから不可能な先導っ……!」
「そして二番目のオーブを取得するんです」
「一番目は無視!?」
「いえ、壁を抜けて二番目、腰ワープして一番目、そして床をすり抜けて三番目……と言う順番が一番早いのでそれに沿っているだけですわ」
「人間に可能な方法で速さを追求しろや!?」
「いや待ってくれ、アシテッド。二番目のオーブは途中にいるスライムのオブジェクトIDをずらした方がイベントを飛ばせるから有利だよ。今回はそっちのルートを試してみないか?」
「うーん、確かにラタの言う通りですわね。そろそろ新ルートも試したいですし、今回はそっちで行きましょう」
「ラタも変な単語使うなっ! お前ら狂気かっ!」
ドランは正直、僕たちの意味不明なルートを理解できていない。でもここで説明しないと余計に混乱して完全クリアに支障をきたすのであえて説明した。
「じゃあ最初は普通に一番目から取るとしましょうっ! ヤッフー!!」
「ヤッフー!!」
「ヤッフー!!」
そしてアシテッドと僕、ルッツは三人で洞窟の大きい岩に腰を何度もぶつけ、壁をすり抜けた。定番の腰ワープである。この岩で腰ワープすると一番目のオーブ付近に飛べるので、皆も学期試験でダンジョンに入る際はやってみると良いだろう。ちなみに「ヤッフー」は腰ワープの仕様である。
「三人とも普通に腰ワープすんなーっ!? 腰ワープは一般技術じゃねぇぞーっ!!」
あと、取り残されたドランが突っ込むのももはや仕様みたいな物である。
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「ここから先は乱数調整が難しいですから、時間がかかります。皆さんは休憩してくださいませ」
「はぁ、はぁ……。ようやく追いついた……」
「あ、ドランも追いつけたね」
アシテッドがオーブの前の部屋で、カサカサとその場を回る露骨な乱数調整をし始めた。すると遅れていたドランも僕達に追いついた。
しかし追い付いて早々、ドランは僕に向かって愚痴を言い始める。
「もっと疲れない速度で進んでくれ……! 魔獣と今出会ったら、私が真っ先に死んじまうぞ!」
「大丈夫さ。魔獣はこの辺にはいない。もうすぐ出てくるのは邪魔なだけのスライムだし、疲れたドランでも処理できるよ」
「ん? ラタ、なんで初めての試験会場の魔物を把握できているんだ?」
「何度も動画で研究したから、テンプレは暗記しちゃってるんだ。そろそろスライムに関する弾幕が流れるだろうから、視聴者もワクワクしてるに違いないよ」
「この世界の単語じゃない単語をサラっと出されても理解できんぞ」
僕がドランを(こっそり乱数調整しながら)なだめていると、奥から奇妙な鳴き声がした。
「ピーッ。ピーッ!」
「お、噂をすればスライムだ」
先ほど話に出した、邪魔なスライムだ。数だけが無駄に多く、プレイ環境によっては処理落ちで時間のロスもしやすい敵キャラである。アシテッドのプレイ環境は割と安定している方だと思うが、ここは運要素に近い部分なので祈るしかない。
「数が多いな……。だが特別強い奴ではないから、時間をかければ倒せるだろう」
「うわー、可愛いです!」
ドランが警戒しているが、ルッツは目をキラキラ輝かせながらスライムを見ていた。これぞ、この作品ではルッツのテンプレ行動として知られる「うわかわ」タイムである。
これはルッツはドランに一定時間わがままを言い始めると言う、悪役令嬢物ヒロインとしては一般的なお邪魔行動だ。下手に行動させると当然タイムロスとなるのだが、上手くやると面白いバグが起こるので一部ユーザーからは人気の高い行動パターンだ。
「ドラン様、このスライムを一匹お持ち帰りしてもよろしいですか!?」
「むぅ。ルッツのわがままは聞きたいが、試験会場のモンスターを勝手に持ち帰って良い物だろうか?」
「でも、でも! 私、ちゃんとお世話しますよ! 申請が必要ならちゃんとしますし、ご飯だってちゃんと……」
「
ルッツがわがままを言っているのに目もくれず、アシテッドは究極レベルの魔法を唱えた。自分のライフを削り、敵全体に大ダメージを与える特大魔法だ。
本来は後半に手に入る超レア魔法だが、学園のとある壁をすり抜けると序盤で手に入ってしまう。なのでスピードランではダメージリソースとして重宝されている。
「お、お前何してんのー!?」
「何って、最強魔法の一つですわ」
「なんでスライム相手にそんな事してんのー!?」
スライム相手に究極レベルの魔法を使うと言う突っ込みポイントは、当然ドランを怒らせた。大賢者しか使えない魔法をボスじゃなくて雑魚に使うんだから、当り前っちゃ当たり前だろう。
「ピーッ。ピーッ!」
「え、スライム連中全員普通に生きてる……!?」
しかしスライムは意外なことに生きていた。そう、実はこの行動はスライムを排除するのが目的ではないのだ。
「今はルッツさんの会話イベント中でしたので、ダメージ判定がなかったんですの。私のHPとMPが減っただけですね」
「発動した意味がないし、物騒な名前のわりに判定緩いなその魔法!?」
「いえいえ、ちゃんと計算して発動しておりますのよ? 次の強敵は弱った味方の近くに出現するので、それを踏まえて発動しただけです」
「なぜ見たこともない敵の出現位置が分かるんだよっ!?」
スライムのイベントのバグで、HPを効率よく削れたため僕達はガッツポーズを3フレームだけ行った。無論乱数調整でもある。
もはやドランの胃は爆発寸前だろうが、スピードランには関係のない事実だ。
「……ちゃんとスライムにおいしいお野菜やお肉も用意しますし、お散歩にも行きます! だからお持ち帰りさせてくださいっ!」
「いや、ルッツも話を継続するなっ! ちゃんと突っ込めやっ!?」
ちなみにこのバグを起こすと、ルッツの会話も若干バグる。通常ストーリーとは一味違う愉快な姿が見られるのでネタ系スピードラン制作勢にもおススメだぞ。
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