part.3-3【死んだライオン魔獣ルート】
「だいぶ進めましたわね。もうすぐ最後の部屋です」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……。だから早すぎるんだよ、貴様ら! もうちょっと人間っぽい速度で歩け!」
いまだ、カサカサ動きについていけないドラン。彼を見ていると、個別攻略スピードランで意図的に消されてしまうのも納得してしまう。
だが今は完全攻略ルート。この移動の時間差もきちんと別の作業にあてるのが通の仕事だ。
「ごめんなさいドラン様。ではここら辺でしばらくスライムと炎のオーブをリフティングをする時間を設けますわ。その間は休んでいいですわよ」
「オーブ壊すなって言われただろーがっ……! なんでそんな荒い扱いするんだ!」
「この二つをリフティングをするとスライムがだんだん別のアイテムに変わるんですのよ」
アシテッドが怒るドランを横目にリフティングを続けると、スライムはきらびやかな剣に変わる。これはオブジェクトIDをずらすバグを利用したテクニックである。このテクニックを使えば、最終的にスライムはオーブに変貌するのだ。
「ほら、スライムが宝剣エクスカリバーになりましたわ」
「軽々とレアっぽい宝剣を出すんじゃねぇ。変化のプロセスがぶっ壊れてないか」
確かにぶっ壊れているが、仕様なので仕方ない。あとエクスカリバーは見つけるだけで国王から勲章をもらえる程のレアアイテムなのだが、ドランはもうそんな事も反応しないほど脳が死んでいるようだ。
「うわー、可愛いです! ドラン様、この宝剣エクスカリバーを一匹お持ち帰りしてもよろしいですか!?」
「ルッツ、宝剣にその感想はおかしいぞっ! お前も故障してないか!?」
ちなみにこのバグを起こすと、ルッツの会話もこのようにバグるぞ。
===
「さて、ここが最後のオーブがある場所ですわ」
「あ、何か大きな生き物がいますよドラン様!」
「あれが、先生の言ってた魔獣だろうか」
僕達はダンジョンの最奥にある部屋へとたどり着いた。今までの洞穴のようなじめじめしたダンジョンと違い、この部屋の壁は大理石のようなもので覆われていた。あちこちに文明を感じさせる意匠が描かれており、神聖なムードが漂う。奥には、オーブが飾られた大きな祭壇が目立つように置かれていた。
……しかしその祭壇の前では、巨大な何かがいた。鋭い牙、立派なたてがみ、凶暴そうな見た目、はち切れそうな体。一目見ただけで強力な魔獣だったのだろう、と分かってしまう。
そう、それはとても巨大な息絶えた魔獣だった。要するに死んだ魔獣だった……!
「……」
「あれは……『凶暴で巨大なはち切れそうな体を持つ、死んだライオン魔獣』ですわね」
「死んでるじゃねーか」
「死んだライオン魔獣。とても危険で、近づくと噛みつかれると聞いたことがあります! ドラン様、気を付けましょうね?」
「死んでるじゃねーか」
「ドラン、あの死んだライオン魔獣を倒すのは少し難しい。下手に失敗して死んだライオン魔獣に噛まれて死なないためにも、うまく死んだライオン魔獣の横を通り抜けよう! 死んだライオン魔獣ほど強い猛獣はそうそういない!」
「いや、だからさぁっ! 死んでるじゃねーかっ!?」
強敵である死んだライオン魔獣を前にしたため、ドランも混乱しているようだ。主に、僕らの仕様とドランの仕様で死生観がズレてるのが強敵ポイントだ。そのズレによる混乱が結構後々のイベントにも響くので困る。
「守護の魔獣が死んでる試験だなんて前代未聞すぎるだろ……。まぁ今回は幸運だと思って、普通に横切れば……」
「――――――!!!」
「うおおっ! 動いたっ!?」
死んだライオン魔獣を平気だと思ったドランだが、死んだライオン魔獣は普通に凶暴な動作を始めた。死んでいるとはいえライオン魔獣。バグったような状態でもきちんと守護の魔獣としての機能を全うしようとしている。
「ほら、気を付けないと噛まれるよ。だってこいつはアシテッドの言った通り『凶暴な』死んだライオン魔獣なんだからね。死んでるけど凶暴なんだよ」
「死後も凶暴って意味……!?」
「まぁ幸い、死んでるから速度は速くない。近づいては来るけど、サッサと横切れば大丈夫だよ。ほら、あんな感じ」
驚くドランとは対称的に、アシテッドは安定したルートでオーブを取りに向かっている。ドニに乗りながら壁に半分埋もれ、序盤にやってたTのポーズでズズズと奥に進む。僕達なら定番と言える移動方法だ。
「あんな風に、半分壁に埋もれた状態で進めば襲われないで済むよ」
「ゾンビも襲う気無くすわ、あんな変態」
===
危なげなく壁抜けで魔獣を切り抜けたので(ドランは拒否したのでゆっくり忍び足で通った)、僕達は無事に祭壇に飾られたオーブを手に入れた。普通ならここで『オーブを手に入れた!』と言うウィンドウがプレイヤー画面に映るが、アシテッドは入手のタイミングに一瞬しゃがむ事で表示を省略できた。
「よーし、オーブを入手しましたわ。後はエクスカリバーをしばらくリフティングしてワープすればミッション達成ですわね」
「その剣、貴重だからオーブにしない方が良いと思うのだが……」
「学校の裏庭にある宝箱で量産可能ですから、問題ないですわよ?」
「量産可能な宝剣ってなんだよ。そんな宝箱、封印しちまえ」
アシテッドはリフティングし始め、ドランはいつも通り突っ込んだ。ドランはエクスカリバーを『魔王を倒せる数少ない武器』と知っているだろうが、それを手に入れようとはしなかった。
きっと受け取ったら人間の尊厳が何かしら失われる、と思ったからであろう。
……食堂のおばちゃんですら最近個別料理TASを初めているのだから、この世界では人間の尊厳だなんて意味のない代物なのだが。
その時。奇怪な風の音が鳴り響く。ドランはまたアシテッドがドゥエった音だろうと勘違いしているだろうが、この音は違う。僕とアシテッドはその正体に気づき、すぐさま回避体勢に入る。
「グゲゲガっ!!」
「!?」
部屋の入り口から猛スピードで真っ黒な何かがアシテッドへと向かってきた。
アシテッドは回避体勢を取っていたためギリギリかわすことはできたが、ドランは敵の姿を見て大層驚いていた。
コウモリの翼、真っ黒でボロボロな衣、鋭い眼光と牙、そして鋏で出来た奇怪な腕。現れた敵の姿はどう見ても人間ではないし、学校が用意した魔獣とも違う。ドランにとって、完全なるイレギュラーな敵であった。
「な、何だ貴様は!」とドランが訪ねると、真っ黒な怪物はゆらゆらとした動作をしながら自分の名を名乗った。
「グゲゲガ。拙者はシャドウシザーマン。魔王様の命により、勇者の血を引く貴様らの命を奪いに来た」
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