part.3-1【ドラン同行バグルート】

 僕たちの通う学園には定期試験がある。

 それは定められたルートのような物でもあり、僕たち学生の中間目標でもある。習得した方が後々楽できる、重要なフラグだ。

 この重要なフラグをわざと逃す者などそうそういない。僕も、ルッツも、ドランも。……そして、今回は完全クリアを目指すスピードラン走者、アシテッド嬢もだ。



=====


 ズザー、ズザー、ズザーッ! ピョンピョンピョンピョンピョンッ! ビクンビクンビクンバシバシバシッ! ズザーズザーズザーッ! ヂュエヂュエヂュエヂュエ――。

「今日はこのダンジョンで学園の実技試験を行う。皆には頑張ってほしいが、くれぐれも他の生徒の邪魔はしない事。いいな?」


 今回の試験会場は、学園が私有する洞窟式のダンジョン。僕達はその近くの広場に集まっている。アシテッドが飛び跳ねたりスライディングしたり震えたりモブ生徒の膝を執拗に殴ったりする中で、教師は生徒たちに試験説明を始めた。


「早速邪魔な事してる人が一名いるんですけど……」


 ドランはいつも通り、間髪入れずツッコミを入れた。一般生徒にとってアシテッドは「関わるとすぐパラメータを弄ろうとするヤバい女」と認識が広まってるので、ドラン以外に止めようとする者はいない。


「まぁ、今は説明イベント中だし評判度の変化はしないから大丈夫だと思うよ」

「どんな理屈でそうなるんだ、ラタ」


 僕がニコニコ微笑みながらドランをなだめるが、彼の眉間のしわは増えるばかりだ。この眉間のしわはポリゴン数が無駄に多くラグの原因になるので、後でほぐしておかねばならないだろう。



「ルールは簡単だ。四人のチームを組んで、このダンジョンにある三つのオーブを壊さずに持ってくるんだ。ただし途中には守護の魔獣がいるから気を付けろ。誰かが怪我をしたりオーブを壊したりしたら四人とも減点だ。分かったな?」

「…………………………………………………………………………………………分かりましたわ」

「よし。アシテッドは返事が早いな」


 教師の簡単な説明に対し、アシテッドは素早く返事を返した。彼女はあの婚約破棄騒ぎ以降はドランに次ぐ優等生となっており、特にこう言った細かな礼儀は一部の教師達からの評価が高い。


「誰がどう見ても返事遅かった気がするんだけど」

「教師からの評価点に、露骨な調整を入れたんだろうね」

「精神の操作でもしたの、あいつ……?」


 ドランは教師の判定に納得が言っていないようだが、彼女は数値的にずっと優等生なので仕方ないのだ。返答が遅かろうが、カサカサ動こうが、高速移動するために爆弾をしょっちゅう建物内で爆発させようが、優等生ポイントは稼げているので彼女はずっと優等生だ。何も問題はない。



「よーし。じゃあチームはくじ引きで決めてくれ。今回は見知らぬ人とチームを組む社交力も、評価するからな」

 教師の呼び声で、生徒たちは順番にくじを引きはじめる。


 近くにいたルッツが「緊張しますね、ドラン様」とドランに不安そうな表情で話しかけると、ドランは少し優しい顔つきになる。ルッツがいると眉間のポリゴン数が減ったりドランイベントが減ったり、何かと便利である。以前のルートではルッツ増殖がテンプレ化していたほどの便利さだ。


「誰とチームになるんでしょうね。嫌な方とチームになったりしないでしょうか」

「まぁ、一番嫌なアシテッドは婚約破棄騒ぎで違うクラスになったから大丈夫だ。チームになる事はないだろう。……ところでラタ、アシテッドはいま何している?」

「真っ先にくじを引き終わったから、暇つぶししている。ほら見て、教師の頭の上で棒立ちしてるでしょ?」


 ドランが不安要素であるアシテッドの居場所を聞いてきたので、僕はアシテッドのいる方向を指さす。

 彼女は教師が被った教員帽の上に、腕を広げたTのポーズで静止している。これは3DCGポージングソフトを起動したときに初期座標ポーズとしてよく設定されてるポーズであり、この学期試験でもポーズの変数をバグらせるとたまにこうなる。

 ――ちなみにこのポーズ、タイム短縮効果はまったくない。彼女なりに空き時間でお遊びをしているだけだろう。



「無礼さとバランス感覚が異常に高い光景だな……。だが話しかけると危険だし、無視して引こう」

 

 どちらにせよドランには気持ちの悪い変人にしか見えなかったらしく、彼はアシテッドと目が合わないように大急ぎでくじを引いたのであった。


=========


「よーし、チームは決まったな」


 全員のくじが引き終わり、各々が決まったチームメンバーと集まる。僕は運良くドランと同チームになった。そして他のチームメンバーには、ルッツとアシテッドが入った。


 要するにいつものメンバーだ。


「良かったねドラン。いつものメンバーだよ」

「宜しくお願いいたしますわ、ドラン様」

「……って、おい! なんで違うクラスのアシテッドとチームなんだよ!? クソッ!」

「最初のアシテッドの動作で乱数が調整されたからね。アシテッドが飛び跳ねたりスライディングしたり震えたりモブ生徒の膝を執拗に殴ったりすると、低確率でドランチームのくじが混ざるんだ」

「どのタイミングで混ざったの……!?」



 アシテッドが礼儀正しくドランに挨拶し、ドランが混乱し、僕が解説し、ついでにルッツがドランの怒号を怖がる。この応対ももはやいつも通りになってしまった。

 ちなみにこの後ダンジョンに入るまでドランのツッコミは長時間続いたが、いつもの事なので文章はスキップする。こういう細かい所も短縮するのがスピードランの鉄則だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る