part.2 【全員生存ルート】
今日は王国主催のダンスパーティの日。
ドラン王子とルッツ令嬢、そして僕は例年通り出席をした。
そして本来立場が悪いアシテッド令嬢も……例年通り出席をした。音速で空を飛ぶ小型船に乗って。
もう一度言おう。音速で空を飛ぶ小型船に乗って、やってきたのだ。
「あら、ドラン王子、ラタ様、ルッツさん。ご機嫌いかがですか」
「な、なんだその乗り物は!? ものすごい速さで空を飛んでたぞ!?」
「これはドニですわ。元々は遠い国で『小さい舟』を指す言葉として使われて……」
「いや、名前なんかどうでもいいから! 魔力も感じないのになんで空飛んでるんだよ、世界的大発明物だぞ!?」
「落ち着こう、ドラン。彼女はいろいろな物を空に飛ばせるんだ。この間だって潜水艦で空を飛び、隣国まで行ったそうだ」
「あれはドニが発見される前でしたからね。次回更新時にはドニに差し替えますわ」
「潜水艦で空飛ぶな! 水を潜れよ! というか次回更新ってなんだよ!?」
「……あの、ドラン様。それよりアシテッド様に聞くべきことがあるんじゃないですか?」
ドランの鋭いツッコミの合間を縫って、ルッツ令嬢が小声で話に入ってきた。
「す、すまんルッツ、つい興奮してしまった。で、聞くべきこととは……?」
「えっと、アシテッド様はその、婚約……を、取り消されたんですよね? ここに来ても大丈夫なのですか?」
「そ、そう言えばそうだ。ドニに気を取られてすっかり失念していたが、貴様は立場の悪い立ち位置なんだぞ。ここにくるなんて、図々しいにもほどがあるんじゃないか?」
「それなら心配いりません。今回のパーティは王妃様から直々に招待状を頂きましたわ」
「は、母上が!? いったい何故貴様なんかを招待したんだ……」
「はい、本来別の方へ届くはずだった手紙を、IDをずらすバグを利用して私宛に差し替えましたわ」
「……てそれ、よく分からんがインチキじゃねーのか!? 他の者の手紙奪うとか、犯罪じゃねーか!」
「ご安心を。犯罪フラグは立ってないので、捜査されてもばれません」
「『ばれなきゃ犯罪じゃない』みたいな言い方で物を言うな! さっさと帰れお前!」
「落ち着こう、ドラン。僕も10年前からやってきた古典的な手法だ。この世界では犯罪として扱われないから安心していい」
「お前もやってんのかよ!? 元々弱小貴族だったお前が何で王家直々に招待されたんだってずっと気になってたが、それが原因だったのかい!」
「……ドラン様、なんか怖いです。怒らないでください……」
「国家の不正が暴かれているんだ、怒りたくもなるわっ!!」
とまぁそんなことはあった物の、『不正は無かった』のでパーティはなんの問題なく開催された。
いつも通り可憐な音楽が流れ、貴族たちが円舞を踊る。いつもと同じだ。
いつもと違うところは、いつも一緒に踊っていたアシテッドとドランが別々に踊っている事だろうか。
「……なぁルッツ」
ドランは踊りの最中に、相手であるルッツに話しかける。
「は、はい。なんでしょうかドラン様。私の踊りに誤りがありましたか!?」
「いや、綺麗な舞だ、アシテッドより踊りやすいよ。それよりも……あれを見てくれ」
「あれ? アシテッド様の事ですか?」
「あぁ。……あいつ、相手なしで踊ってるように見えるんだが」
「え? 相手いますよ? ã¢ã·ãããã®ç¸æ公爵のご子息ですよね?」
「……は? 今なんて?」
「ですからã¢ã·ãããã®ç¸æ公爵のご子息です」
「いやいやいや、何その名前!! 人名として成り立ってんの!? と言うかお前よく発音できたな!?」
「ド、ドラン様、大声を出さないでください。踊りの最中ですよ」
「いや、でも気になるだろ! えーとaca……aaa……公爵の……」
「ã¢ã·ãããã®ç¸æ公爵のご子息です」
「それだよ! いったい何者なんだその公爵は! 聞いたことないぞ! それに見えないとか、どんな透明人間だよ!?」
「えーと、ラタ様のお話ですと、そのお方は『無』だそうです」
「……無?」
「ある場所で手に入れられる『無』を取得した状態でパーティ会場に来ると、ã¢ã·ãããã®ç¸æ公爵のご子息とダンスできるんだそうです。本来いないはずの人物なので、変わった名前になってしまうんだとか」
「本来いないはずって、ホラーかよ!?」
「さ、さぁ。私もラタ様から聞いただけですので、詳しくは……」
「う、うぐぅう。納得がいかない……」
そう言った会話をした後に円舞は一旦区切りがついた。
終わるや否や、ドランはふらふらと休憩の場へと歩みを進める。
「お疲れ様、ドラン。顔色が優れないけど大丈夫かい?」
「だ、大丈夫だ。ちゃんともしものために胃薬と精神安定剤も持ってきてる」
「ドラン様……なんでそんな薬を服用されてるんですか?」
ルッツが心配そうにドランを見つめている。
「だいたいアシテッドのせいだ。婚約破棄する前の方がまだ人道的で可愛げがあったのに、婚約破棄した途端音速で私の周囲を飛び回り始めたのだ。服薬せねば精神が壊れてしまう!」
「あら、私のお話でございましょうか?」
「げっ!?」
愚痴を言っているドランの背後にいつの間にやらアシテッドが立っていた。
「何しに来たアシテッド! お前と踊る気は毛頭ないぞ、さっさとどっか行け!」
「ご安心くださいドラン王子。別にあなたに不快な思いにさせるために来たわけではありませんわ」
「なら何しに来たと言うのだ!」
「それは……
「貴様、ドラン王子だな?」
「えっ……」
突如、ドラン王子に声がかかる。声のする方を見てみると、暗い顔をした男が立っていた。
「な、何だ貴様。無礼だぞ、名を名乗れ」
「その必要はない……貴様は間もなく死ぬのだから」
男はポケットからナイフを取り出し、ドランの胸元めがけて接近してきた!
「なっ……!?」
「危ない、ドラン王子!」
ドランと男の間に、アシテッドがカサカサしながら割り込む。
鈍い音がなり、アシテッドはびくんと揺れたのち、倒れこむ。
見るとアシテッドの胸元には男が持っていたナイフが刺さっており、ドレスはどんどん真紅に染まる。
「ちっ……!」
アシテッドにナイフを突き立てた男はドランとアシテッドをちらりと見やった後、出口へと走って行く。
「……早くその男を捕えろ!」
僕がそう叫ぶと、周囲にいた衛士は大急ぎでその男を追いかけていった。
「あ、アシテッド。どうして……」
ドランはアシテッドを抱き起す。アシテッドはまだ意識はある物の、とても危険な状態だと見て取れた。
「ふふ。私、分かっていましたの。今日あなたが恨みを持つ輩に殺されるイベントが発生するって。だから私、それを止めるためにこのパーティに参加したのです」
「だ、だからってこんなことしなくても……」
「……今日、誰かが刺される運命は変える事はできませんの。だから、他の方の迷惑をかけないようにこのルートを選びました」
「そんな。でも」
「最後に、これだけは言わせてください。私、あなたの事を心の底から愛してます。今も、昔も……」
「さ、最後なんて言うな! 命令だ、死ぬんじゃない!」
「泣かな……いで。貴方は……泣くようなお方じゃ……な……い……」
……
アシテッドは、そのまま息絶えた。
「アシテッドオオオオオオオっ!」
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今日は王国主催のダンスパーティの日。
ドラン王子とルッツ令嬢、そして僕は例年通り出席をした。
そして本来立場が悪いアシテッド令嬢も……例年通り出席をした。音速で空を飛ぶ小型船に乗って。
もう一度言おう。音速で空を飛ぶ小型船に乗って、やってきたのだ。
「あら、ドラン王子、ラタ様、ルッツさん。ご機嫌いか
「ってちょっと待て!? 何でお前ぴんぴんしてるんだ!? と言うか何で時間が戻ってるんだ!?」
「えぇ。今回はリセットしてもドラン様の好感度が下がらないバグを利用して、一旦死亡ルートに通ってみましたの」
「り、リセット?」
「要するにドラン様の記憶を引き継いだ状態で時間を巻き戻しましたの」
「時間干渉までできんのお前!? どんだけぶっ飛んでるんだよ! と言うかそんな能力あるなら死ぬ前に戻れよ!」
「残念ながら王子の好感度は死亡後じゃないと上がりませんの。まぁなかなか上がらない好感度が上げられるんですし、『好感度は命より重い』って奴ですわ」
「……」
「さて、この週はルッツさんが刺されそうになるから、それを庇わなくちゃですわね」
「アシテッド、これ用意しておいたよ」
僕はあらかじめ用意しておいた防刃ベストをアシテッドに渡した。
「ありがとうございます、ラタ様。これ、隠しアイテムで入手が難しいんですよね」
「いやー、手に入れるのに苦労したよ。おかげで追記10万台突破しちゃったよ」
「とにかくこれで『刺されても全員生存するルート』に行けますね、本当にご苦労様でした。……それでは皆さん、またあとでお会いしましょう」
そう言ってアシテッドは、ドニに乗ったまま3人の元を離れた。
「……あの、ラタ様。ドラン様が静止したまま動かないんですが」
会話の終わりを見計らって、ルッツ令嬢が小声で話かけてきた。
「あぁ、彼は混乱すると時々そうなるんだ。処理落ちの一種だね」
「しょ、処理落ちですか」
「まったく、困るんだよねこの仕様。この処理落ちさえなんとかできればストーリーの進みも10フレームほど早くなるのに」
「ふ、フレームってなんですか?」
「あぁ、フレームってのは時間の単位で
「くそおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「あ、処理落ち直ったか」
「不覚にも死んだときにときめいてしまったじゃないかああああああ!! 私のときめきを返せええええええ!!!」
「どうどうどう」
王国は今日も平和です。
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