煌めきPrelude
くるみ
生まれる想い。
——ミーンミン ミンミンミン
目が覚めたらそこには真っ白い景色が広がっていた。
「い、ててて…」
自分が倒れたのだということも、ここが学校の保健室のベッドの上だということもぼんやりとする頭でなんとなく理解するとそのままベッドに倒れこみ横になった。
「うー、まだ頭クラクラする」
うっすらとした記憶では、外で体育をしていた時に倒れたのだと思うが自分がこんなにも貧弱な体だったのかとガッカリする。
「今何時だ……」
取り敢えず意識が戻ったって保健医に伝えなくちゃだな。俺はそう思って再度起き上がる。
「今はもうとっくに放課後。時間は16:00を過ぎたところで、保健医の
「へ〜、そりゃどうも…って、生首?!」
「ふふふ、良いリアクション。でもここは保健室。だから例え誰もいなくても静かにしてなくちゃ駄目よ?」
「そ、それが驚かせたやつの言うことかよ…」
「あっ、それもそうね…」
俺の独り言に返してきたかと思うとカーテンの向こうから首だけを出してニコリと笑う少女。黒く艶のある髪がカーテンの白によく映える。
「もう具合はいいの?」
「いや、まぁ、まだクラクラするけど家には帰らなきゃならねーし…」
「部活はやってないの?」
「あー、今日は休んでもいいかなって」
「そう…。何部なの?」
「一応バスケ部でエースやってるよ」
「エース?それって一番上手ってこと?」
怒涛の質問に俺は思わず笑ってしまう。
「くくっ、あんた質問ばかりだな」
「あっ…、ごめんなさい」
「いや、別に責めたつもりじゃねーって」
そう伝わったなら悪い…、と加えると少女は嬉しそうに笑った。
「こっち来れば?顔だけ出して会話だとなんか俺の独り言みたいだし」
「いいの?」
「おう。まだ先生も戻ってこないだろうから、ここ座れよ」
ポンポンッと保健室のベッドを叩く。
「お邪魔します…」
そう言って入ってきたのは俺と同じ上履きの色をした小柄で華奢な少女だった。
「あれ、あんた同じ学年なんだな」
ほらっ、と胸ポケットから学生証を取り出す。
そこには少女の上履きと同じ青みがかった紺色のカバーがあしらわれていた。
「雫……。
「え……?」
「私の名前。星野雫って言うの」
突然告げられた名前。それが彼女の名前なのかと思うと綺麗な黒髪に似合うなぁと考える。それに彼女のグレーの瞳は俺のとは違って、すごく…惹き込まれる。
「ほしの…しずく…。すげー綺麗なのな。星の雫、ってことかぁ。キラキラしてる」
思わず口を出てしまった言葉。
「え……?」
それに対し星野が驚いた表情をする。
「ん、だから星野雫って綺麗な名前だなって思ってさ。似合ってる」
「……初めて言われた」
「みんな言わないだけじゃねーの?」
「私、小さい頃から病気がちだったから学校に来ても保健室にいることが多くて…お友達いないの」
そうやって俯く様子を見ると、何となくこっちまで切なくなってくる。
「……それに髪は真っ黒なのに目はグレーでしょう?中学生の時は気味が悪いって言われてたのよ」
自虐したように笑う姿は、何故だろう。…見ていて辛い。
「じゃあさ……」
そう言って手を差し出す。
「俺が友達一号」
その姿を見て固まってる星野。
「俺は星野の髪も目もすげー綺麗だと思う。だから今後は自虐なしな!自信持て!」
「……あ」
数分固まっていた為、どうしたのかと思って顔の前でぶんぶんと手を動かす。
「……」
「おーい、星野〜?」
「……」
「どうしたんだよ?」
「……っ」
「なっ、泣いてんのか?!」
俯いて肩を震わせる星野。
「なっ、泣くほど嫌だったのか?!」
「……ち、ちがっ」
「えーと!そうだ!と、友達から始めようって思って」
馴れ馴れしかったか?!と肩を掴むと
「う、嬉しくて…」
小さな声が返ってきた。
「何だよ〜、ビビらせんなよな」
安堵からボフッとベッドに倒れこむ。今日で二度目だ。
「あのっ、ごめんなさい。こんなこと初めて言われたから…すごく嬉しくて」
そう言って笑った星野の横顔はキラキラして見えて、雫のように儚くて…。
「あ、俺の名前は
よろしくな、と再度手を差し伸べると
「天を自由に羽ばたける…。それこそ本当に、素敵な名前」
と星野が手を握り返し、
「よろしくね。天野くん」
俺の名前を呼んだ。
よくわかんないけど掴まれた手は熱くて、俺の名前を呼んだ声は耳に甘く残って…。
——…胸のあたりが変に苦しくなった。
「…今日からよろしくな」
ある夏の日の保健室。
交わされた言葉は青く澄みわたる空に解けて消えた。
——ミーンミン ミンミンミン
外ではまだ蝉がしきりに鳴いている。
俺の胸の鼓動も同じようにそれにつられるかのようにいつもより速く聞こえたのは、きっと気のせいじゃないのかもしれない。
煌めきPrelude くるみ @yume_koi
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