第75話 はじめてのお粥さんとはなんぞや

 さて、前回のつづきです。

 そんなこんなで正月早々ぶったおれていた私。

 今度は、いそいそと身の回りの世話をしてくれていたダンナがじわじわと微熱を発症し、寝込んでしまいました。

 あまり高熱にならないところからしてインフルではなさそうですが、さて困った。無事に生き残ってんのが、受験生のムスメただひとりになってもーた。


 彼女だけは受験生なのでインフルエンザの予防接種を受けているのですが、それでも私の使った食器やらなんやらに触ったりはしないほうがええわけで。

 困ったなと思いつつも、ひどい頭痛であんまり思考が安定しない私。


 朝晩はタミフルを飲まねばならないので一応起きてなにかを口に入れ、薬を飲む必要があります。

 で、その晩は寝ている私のところにやってきてムスメがきいて来ました。


「どうするん。なんか食べる?」

「うーん……」

 正直言って、食欲は毛ほどもない。

「まあ、お粥ぐらいなら食べられるかもしれんけど」


 無言ですすーっとその場を去るムスメ。

 なんやろなあ。まさか? いや、まさかね……。

 と思いつつ寝床でじっとしていたら、「できたで」の声。


 いやもう驚きました。

 彼女に作ってあげたことは何度もありますが、彼女が私に作ってくれたのはこれがはじめて。

 受験生の親にとって、スマホってありがたいことばかりじゃありませんが、このときばかりは感謝しました。だってちょっと検索すれば、お粥の炊き方ぐらいわかりますもんね。


 昔の私みたいに、そんなもんいっぺんたりとも教えたことのない母から「あんた、そんなことも知らへんの?」とせせら笑われるなんて必要はこれっぽっちもないわけです。これぞスマホの勝利です。

 教えてもせんもんを娘が勝手にわかってできるようになってないからってマウント取って嘲笑し、心底嬉しがるとか、ほんまどんだけ幼稚な母やったことかと今でも思う。

 私はああいう母親にだけはなるまいと思ってここまできました……まあ、家事はできとらへんけどね!

 あの時の私にスマホがあったら、ここまで料理嫌いにならずにすんだんかも知れません。はあ。


 ダンナはあまりにも食欲がなくて食べられませんでしたが、私はありがたく頂戴しました。

 ご飯から炊くほうのやつでしたが、美味しかったです。忘れません。

 なんかもう、おかーさんは泣けてきたよ……。

 受験生になにさしとんねん私、って!



 あ、そうそう、それから。

 そのタミフルなんですが、薬についてくる説明書にこんな注意書きがありました。薬を服用中であっても、以下のような症状があらわれたら医療機関を受診してほしいとのこと。


1.呼びかけても返事がおそい

2.けいれん

3.意識がなくなる

4.興奮症状がみられる

5.眼の焦点が合わない

6.その他いつもとは様子が明らかにちがう など

                  出典『沢井製薬株式会社』


 あのこれ、こう言うと不謹慎ですけども。

 2以外は推しに夢中になってる腐女子のみなさんにはわりと日常的に起こってる症状ちゃうん……? とか思いました。え? ちがう?

 んで、ムスメに言いました。


「この最後のやつさあ。私やったら『え? BL? なにそれ気持ち悪い。そんなの私、絶対読まないから!』とか言い出したら、速攻、医者に連れていけってことやんなあ?」

「それは頭の病気」


 はい、鋭いツッコミを頂きました。

 さすが我がムスメです。間違いなく関西人の突っ込み体質を受け継いで、すくすく育ってくれておるようです。


 でもお粥、ありがとね。

 ママンは一生わすれないよ。

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