第17話 おばあちゃんとはなんぞや


 いや〜、行ってまいりました、お墓参り。

 もちろん、ダンナのおうちのほうです。

 前回も申しました通り、要するに、無事に就職できたことのご報告ですな。


 実はすでにお亡くなりのお義父さんのお誕生日が2月22日(にゃんにゃんにゃんの日)だというのは前にも申しましたが。

 就職できたことが分かってからダンナが教えてくれたんですが、今回採用してくれた会社へ出した履歴書に、ダンナはこの日付を書いたのだそうです。もちろん、「オヤジ、なんとか頼むわ」という一縷いちるの望みをかけてです。


 いや〜、ご利益ありましたね。

 きっとお義父さんも、彼岸あっちで「ホンマ、しゃあないなあ」ってわろてはったことでしょう。

 そんなこんなのお礼もかねて、今日はお墓参り。まあ、お天気も良くてよろしゅうございましたです。


 んで、今日はついでに、そのあちらのご家族のお話を。

 ダンナ、小さい頃からお母さんはおられず、真っ白いお肌して細っこい小柄な子やったもんで、そらもうおばあさまはご心配やったようです。

 なんかもう、ちょっと「けほっ」て咳でもしようもんなら、「すわ!」とばかりに保健証もって、ダンナを連れて町のお医者さんに駆け込まれておったそうです。


「センセ、どうにかしたってください。この子は結核なんです。もうこの子が不憫で、不憫で……」

 て。


 まあ当時はというか、明治生まれのお祖母さまの感覚からしたら、結核は死の病ですし。

 ダンナみたいな真っ白な子、そら心配やったろうなあとは思います。

 今もなんや聞いたら、じわじわ結核が勢いを取り戻してきつつあるらしいですね。でも最近の若いお医者さんは、それを診た経験があまりないせいで、風邪と間違いはることもあるらしい。まあ、お互い気ぃつけましょう。


 ま、それはええねん。

 ほんで、町のお医者さんはもう、毎度のことなもんでようわかってはって、「いやおばあちゃん、そんなん大丈夫ですから」言うて帰してはくれはらへん。

 というか、そんなんではおばあちゃんが絶対納得しはらへんわけです。

 ほんで、いっつもめっちゃぶっとい針のでかい注射をおしりに――そう、今やである、あのぷりっとした可愛い(?)おしりに――ぶっすーっと刺してくれてはったそうです。

 もちろん、病気やないんやから栄養剤かなんかです。

 でも、それでやっとおばあちゃんは納得しはって、子供のダンナは解放されてたらしい。

 かわいそうなんか、大事にされてて良かったねっちゅうべきなんか、なんやようわからんけども。


 けど、そんな風やねんけど、曲がったことは大嫌いなお人やったそうです。

 街のチンピラ(というのは死語なんやろか)がバスなんかの列にちゃんと並ばんと割り込んだりしているのを見ると、もう黙っとられへん。

「並びなさい! みんなちゃんと並んどるでしょう!」

 と、はっきりきっぱり言う人やったと。

 もちろん相手はチンピラですから、

「なんやとババア! いてこますぞワレ!」

 とかなんとか、言いよるわけですが。そんなもんにはちーっとも動じない。

「関係ない! みんな並んどるんやから、並びなさい! 殴るんですか。殴んなさい!」

 言う人やったそうな。

 わあ、かっこええ。


 そんでも、万引きした少年とか、自分で捕まえて交番なんかに連れていっときながら、

「許したってください、初めてなんです。ちょっとこの子ぉは、魔がさしただけなんです」

 言うて、泣いて謝って許してもろうたそうな。


「自分の子かっちゅうねん」

 て、ダンナは話して笑っておりました。

 もちろん、縁もゆかりもない子なんですよ? 

 いやすごいわ。

 もうそんな方、どのぐらい残っておられるんでしょうかねえ。


 そんな方なもんで、ご近所の子供らやら、親戚みんなの子供らやら、ほとんどご自分で育てたみたいになっていて、ご生前はみなさん頭が上がらんかったということでした。

 もう今ではええおっさんやら、おじいさんやらになっておられることと思いますが。

 そういうご近所づきあいが、昔は普通にあったんですねえ。


 と、今回はそんなお話でした。

 ではでは。

 みんなして、初仕事に行ってまいります〜。

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