第15話 実家とはなんぞや



 実家。

 まあ、実家は実家ですわな。


 ときどき、ダンナは私にあんまり虐げられると冗談で、

「実家に帰らせていただきます!」

 って叫ぶときがあります。

 まあ夫婦喧嘩のお約束みたいなもんですわな。最近はドラマでも見ないぐらいな古色蒼然たるテンプレではありますが。

 もちろん、本気で喧嘩なんてしてるわけやなくて、うちの場合はほんの冗談でです。

 しかし。


「ちょっと待ち。実家って?」


 そうなんです。

 ダンナは前にも申しました通り、すでに天涯孤独の身。

 直接の血のつながりがあるのは、娘だけです。

 たとえ帰りたいと思っても、帰るべき実家を持たない身の上です。

 それが「実家に帰ります」て、まさになんぞや。


「え、だから……●さんの実家」

「……は?」


 待て。

 それは私の実家や。

 そこへ「帰って」何をしようというねんな。


「『お義母さん! ●さんが、●さんが……!』って、泣いて訴える」


 どひー。

 何を言うとんねんなもう。

 ドア開けたらいきなり「ぽっちゃり」な娘のダンナが「お義母さん……!」って泣いてたら、どこのお義母さんもひくんちゃいますの。


 母が半眼になって、黙ってダンナの目の前でドアをぱたんと閉じる姿が脳裡に浮かびましたわ、ホンマ。

 まさにマンガや。

 「ああ、仲よくって何よりやねえ」みたいな?

 いやもう「エエ加減にしなはれ」状態か。

 多分そんな感じでしょうねえ。

 けどまあ、娘のダンナにそうやって訴えられても困りますよねえ、普通。


 ああ、実家で思い出しましたが、まだまだ先の話とはいえ、うちも一人娘なもんで、子供がヨメにいくときのことなんかも時々話をすることがあります。

 まあうちのヲタまみれな娘のことなんで、そんなもんはえっらい先の話にはなりそうなんですけどもね。


 で、ダンナ、娘に「カレシが出来たときには、必ずワタシに言いなさい」と。


「ふーん。なんで?」

「まず、鍋を振らせる」

「は?」

「『ワタシを倒してからにしなさい!』って言う」


 ……おいおい。

 胸を張ってなに言うかと思えば。

 倒すて、そっち方面でかい。

 アナタに勝てる男子は、まあそうそう居なさそうやけどもねえ。

 料理だけやのうて、掃除、洗濯、そのほかも完璧なんやし。


 ほら、料理って、「できるよ」「するよ」言うてる人でも、やっぱりなんやかんや、あるやないですか。

 そらまあ、出来たもんはものごっつ美味しかったとしても、後片付けまでが完璧な男性って、そんな多くはないですよね。あと、材料費がかかりすぎとか。

 「嬉しいわ、ありがとう」って言ってる奥さんの目が、もうカオスになってるシンクの方を見て、「ああ、この後片付けをするのは私なのね……」って微妙な色になってるなんて、まあよく聞く話ですやん。

 でもそこも、うちのダンナはきっちりやりはりますからねえ。


 料理しながら、不要になったものをてきぱき洗って片付けていく。料理ができあがったときには、シンクの中もすでに綺麗に片付いている。

 これって、頭よくないとできないと思うんですが、彼は平気でこなします。

 「学校の勉強は嫌いやったしできへんかった〜」とは言うてるんですが、頭の良さってそういうもんだけでは計れない、いい例やないかなと思いますね。


 むか〜し、私もとある中華料理店でバイトしておりましたが、18ぐらいで「勉強キライやから」って料理人目指してお店に入ってきた若い人、何人も見ましたけれども。

 言葉はちょっとアレですけども、「ほんまのアホ」ではどんな仕事でも務まらんのやなあ、ってすごーく思いましたね……。

 別に学校の勉強はできんでもええかもしれんけど、なにか仕事を次々に言いつけられても「段取り」がぱぱっと構築できる頭は、持っといたほうがええやろなあ……なんて、思いました。

 気の短いチーフが、もたもたしてるそんな子にイライラして怒鳴りつけたり、しまいめにどついてはるんを見るのんが、もうほんま心臓痛くなってきてつらくて。

 ううう。元気かなあ、あの子ら。

 みんなええ子たちでした、ほんま。

 幸せでいてくれてるといいなと思います。


 うちの子供も大概、ぼさーっとしてるもんで、まあ彼らと似たようなもんですから、今後が心配っちゃあ心配ですけども。

 大事なのは段取りと、なんでも優先順位をきちっと決めとくことですよね。

 でもこればっかりは、人様にもまれていっこいっこ、覚えてくしかないのかも知れませんねえ。


 あ、また何の話かわからんようになってもうた。

 今日のお題は「実家」やったはずやのに〜。

 いつのまにか「段取り」になっていた! 

 ちゃんちゃん。

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