第12話 方向音痴とはなんぞや



 方向音痴。

 はい。これはもちろん、ダンナの話です。

 一般的に、この病を患っている確率は女子のほうが高いような気はするんですが、少なくとも我が家では逆です。

 だって確信を持って「よし、この道を右やな!」って言いながら、堂々と曲がってゆく男やからね。

 あれには吹いたわ。


 で、今回はその方向音痴の話やなくて。

 その「方向音痴」が、やたら人から道きかれる、っちゅうお話です。

 これは前にもちらっとお話ししましたけども。


 なにしろ、ほんとーによく道を聞かれるらしい。

 「だってそこに駅員さんおるやん」とか、「すぐそこにコンビ二があるやん」とか本人は思うらしいんですが、通行人の方はそれはガン無視してダンナに道を訊ねるらしい。

 それも、外人ゲージンさん、つまり外国人のかたからが多いようです。


 ダンナは大阪の人間なもんで、ここからはこっち方面の地名やらが出ますがご了解くださいね。


 あるときダンナ、地下鉄の出口のところで地図をもってその場でぐるぐる回っている外国人さんを見た。

 なんやいなあと思って「メイアイヘルプユー?」と聞いてみたら、


「トウキョウホテルがない!」


 とおっしゃる。


(は? ここオーサカやで)


 とは思ったけれど、一応、地図を見せてもらってよくよく聞いてみたら、それは「東急ホテル」のことやった。

 地下鉄の出入り口って、何番出口とかってたくさんあるやないですか。

 そんで、その人は「そこ出たら目の前にあるから」と言われて来はったんやけども、多分、出口を間違えはったっちゅうことらしい。

 ダンナはもちろん、そのままその方をそちらへご案内したと。


 あとは中央線吉田駅あたりで「アワジはどこ!?」って困ってる外国人さんとかね。

 淡路は阪急電鉄なので、路線が違うと路線図にはのってませんもんね。

「あーそれは、オーバーゼアーやから」

 ダンナ、あやしい英語と大阪弁で説明。

「ツーステーション向こういってから〜」

 その英語も大丈夫なんかいな。

 ま、当時はたらいてた会社では、ほとんど英語しかしゃべれへん同僚のおっちゃんとかもいてたんで、そういう人との会話自体は慣れていたようですが。


 かくいう外国人の同僚さん曰く、

「オーサカピープル親切、ウレシイ」

 さらに、

「俺だって(迷ったら)お前にきくよ!」

 だそうな。

 それも多分、英語でおっしゃったんでしょうけども。

 そこまで「安全パイ」か、ダンナ。

 まあ確かに、いきなり刃物出しそうな人間には絶対見えんけども。


 一度など、小柄なダンナよりも20センチは背の高い外国人男性が改札の前でじっとしてるのに遭遇したそうな。

 その人は、改札機にICカードをぺたっとくっつけてはそこを通っていく人々をしばらくじっと見ていて、ダンナは「なんやろなあ」と思ってみてたんやと。

 ほしたら、その人は「うん、わかった!」みたいな顔になって、やおらをそこにぺちっと当てたと。

 もちろん、「キンコンキンコンキンコン」、ガシャーンと閉じられる。

 ダンナはそのとき彼のすぐ後ろにいたんですが、彼にきゅっと振り返って、「どうしてホワーイ!?」と「タスケテ!」の目でじっと見下ろされてしまったと。


(すぐそこに駅員、立っとるやん!)


 と、その時もやっぱりそう思ったけど、ダンナはやっぱり親切に「ICカードはタッチOKやけど、ペーパーカードはスロットインよ」と、これまた怪しい説明をしてあげたと。

 お相手は「アイシー、アイシー」(分かったちゅうことね)ってにこにこ去った。



 あ!

 ここまで書いて更新するほんま直前に、ダンナから新情報が来ました。

 なんとダンナ、そういう事態にあまりにもよく直面するため、自作のプリントを作って常に携帯しておるそうです。これは私も初耳でした。


 その名も「困ってる外人さんに対する声掛け」(自作)。

 色んなサイトで調べた「道を聞かれたときのための英語」の例文がずらっとA5の紙にプリントされておりました。

 そ、そこまでする……??

 ちょっと吹いたわ。


 と、いうことで。

 もしもあなたが関西圏で道に迷って、そこらへんにいた人畜無害なぽっちゃり男子に道を聞くことになったら、それはうちのダンナなのかもしれません、というお話でした。


 ちゃかちゃんりんちゃんりんちゃんりん、でんでん。


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