第4話 寂しがりやとはなんぞや



 寂しがりや。

 うちのダンナは、まぎれもないこれです。

 だからって、ええ大人の男で、自分でそう言っちゃう人もそんなにいてないかと思うんですが、ダンナの場合はもう、堂々とみずから言っちゃってます。


「この、寂しがりやさんめ!」って私が叫んだら、ほぼ100パーの確率で「寂しがりやさんやもん!」って返って来ます。

 虫の居所の悪いときには、それに対して私が返すのはとび蹴りですが。

 ちょっと砂吐きそうになるわあ。


 ちなみに、ダンナはウサギ年生まれです。

 ウサギっちゅうんは「さびしいと死ぬ」っていう伝説があるやないですか。まあ科学的に証明されてはないようですが。

 っていうか、デマ? 迷信? まあようわからんけども。


 とにかくダンナは何かっちゅうと、その白いお肌をぷるぷるさして、「ウサギはさびしいと死んじゃうんだからね!」とか、こっちをしてくるわけです。

 どっかのツンデレ悪役令嬢かなんかか、アンタは。

 意味がわからん。

 アンタはいくつや。


「三ちゃいやもん!」

 とか返ってくる。


 待て。

 勝手に五十もサバを読むんやない。

 五十って言うたら半世紀ですやん。

 四十で「不惑」、五十いうたら「知命」いうて、天命を知らんとあかん年やないかいな。

 なにそこで「寂しさを知」っとんねん、このムー○ンは。


 いやまあ、分からんこともないんですよ。

 ダンナは物心ついたときには、もうお母さんのいなかった人でした。せやからずっと、おばあさまとお義父さまに育てられてきた人です。

 その明治生まれだったおばあさまが、「ワシが死んだらこの子はどうなる」と思わはって、そらあえらい厳しく育ててくれはったんやそうです。

 だからこその、あの家事力。納得です。


 だから当然、お義父さんもすごい家事力のかたでした。

 うちに子供が生まれてすぐにお亡くなりになってしまったのですが、一度なんか、お正月にうかがったらお手製のおせちが出てきてびっくりしましたもんね。

 目を疑いましたよ、私。

 我が家の男どもとはほんま、根本からえらい違いやったわ。


 ともかくそんなんで、ダンナは今や天涯孤独の身です。

 血がつながっとんのは娘だけ。私はそもそも他人やし。

 とか言うたら、まーた泣かれそうやから言わへんけども。

 そら輪をかけて「さびしがり」に傾くのも分かりますわな。


 そういえば、前にお正月にこちらの親戚一同で二泊三日とかのツアー旅行に行ったことがありまして。

 その時、ダンナだけたまたま、仕事で参加できなかったんですよ。

 だもんで、こちら家族と私と娘で行ってきたんですが。

 その間、いつもやってるオンラインゲームとかやって、私が「飲むな」とうるさいんでいつもは飲めないコーラなんかも飲んだりして、さぞや楽しく羽根のばしてるんやろなあと勝手に想像(少なくとも私やったらそうやから・笑)していたら、それが全然違ったらしい。


 帰ってきても、家にだれもおらん。

 ご飯もひとりで食べんならん。

 ゲームはまあするけども、すぐイヤになってぽいっと放り出して、毎日八時には寝床にもぐり込んで寝てたと、こう言うんですわ!


 いやもう、呆れるっちゅうかなんちゅうか。

 一応、一人暮らししたことあるくせに!

 どんなんやねんソレ!


 あかん、そらあかん。

 ほっといてもすぐ病気になるレベル。

 さすがウサギ年うまれ。

 寂しがりや、恐るべし。


 せやからまあ、最近はよほど鬱陶しくない限りはに応じるようにしています。

 え? 

 いや、全然色っぽい話とちゃいますよ。


「よしよししてよう!」

 と言われれば

「ハイハイ、よしよし。いいこいいこ。頑張ってる、頑張ってる」

 と頭を撫でてやり、

 朝わたしを起こして、なんや生まれたてのヒヨコかなんかみたいに手足をばたつかせているのは「ぎゅーってしてよう!」の合図なので、半分寝ぼけながら「ハイハイ」とそうしてやると。

 まあそんな感じですかな。


 仕事に出かけるときは、

「ほな、いってらっしゃい。変なおっちゃんに『アメあげる』とか言われてもついていったらあかんよ」

 と言えば、

「うん! ボク、ついていかないよ!」

 と、目をきらきらさせてそう答えられておる私です。

 いや、どこからどう見てもアンタこそが色白ぽっちゃりのおっさんやけどもね。


 ああ、でも一応、ダンナもドアを開けたら突然ぴりっと「ジェントルマン」(本人談)に早がわりしますけどもね。

 だからリアルに外でダンナを知っている方には、きっとこんなん、想像もつかない姿だと思います。

 ドア一枚へだてて、えらい違いや。


 だから、外を一緒に歩いてるときに腹肉もみもみしに行ったら、「なにするのよ!」というキビシイ目で睨まれる私。

 でも家へ帰ったら「さっき睨みやがったなああ!」ってまたその腹肉を足蹴にしておるわけですが。

 そして「いやーん、もっとやって!」とか言われてまた萎えていると。

 ええい、思い出したらムカついてきた。



 でもあれですね、なんぼ寂しがりややから言うても、いっこだけ、私も譲れんことがあります。

 それは、ダンナがたまに、

「●さん(私の名前)死んだら、俺ぜったいアカンもん。すぐ死ぬもん」

 と言うことです。


 なに言うとんねん。

 まだ子供、未成年やぞ。

 人間、いつ何があってどうなるかなんか分からへんねん。


 だからいつも、

「それだけは許さん。来ても蹴り返すから覚悟するように」

 と申し渡す、ちょっと怖いヨメなのでした。

 にゃははは。

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