5年後

市が主催する成人式の後で、中学の同窓会があった。

高校入学と同時に親の転勤で引っ越したため、この街での成人式には出られなかった。けれど、同窓会には出ることにした。


中学を卒業してから5年、久々に顔を合わせてみると大分変わった姿がある。

高校卒業後に就職した現役社会人、大学生、短大生、専門学校生、みんな様々な進路を選んだのだ。

「よお!久しぶり」

この金髪の大男は……誰?


「やだな、わかんねぇ?俺、ヨシダ」

「嘘だろ、おまえ変わりすぎだよ。」


地元工業高校を卒業後家業の自動車整備会社で働いているというヨシダは、途中まで通学路が同じで結構親しかった友人だ。

昔はもっと小柄でサラサラ黒髪の地味な奴だったんだけど…


「いや、お前が変わらな過ぎるんだ。大学生なのに髪も染めない、パーマもかけない…」

「染めるの似合わなそうだし。それに大学生でもないのに金髪のお前に言われるとは思わなかったな」

「あ、確かにそうだわー」


中身は大して変わってないようだ。

他にもややヤンキー化した一部の連中を除けば大体の男子は見当がついた。

しかし…女子の変わりようは凄まじい。化粧で化けてるのか(口に出したら怒られそうだが)顔立ち自体が変わったのか、半分くらいはわからない子がいる。


ひときわ派手な格好の集団から離れ、人の少ない端の方に紅梅色の振袖に山吹色の帯をしめた女性が佇んでいる。

懐かしいその後ろ姿に声をかける。


「久しぶり」


振り返ったその顔は間違えるはずもない、幼馴染・芦原桜子あしはらさくらこのものだった。

周りの女子のような派手な髪型をせず、後ろで緩く結わえた彼女は、あの頃より少し大人びてはいるが、それほど変わってはいなかった。


「そっか、隣町だから成人式には来れなかったんだね。」

「そうそう。だから、向こうが終わってすぐに車走らせてきたってわけ」

「じゃあお酒はダメだね。…まあ、私も飲めないけど。」

「そうだね。桜子は三月生まれだからまだ19歳か。」


久々に呼ぶ彼女の名前、あの頃も『さくらこ』と呼んでいただろうか。

無意識に呼んだその名前を訝しがらず、微笑んでいるところを見るとそうだったのかもしれない。


「桜子は、地元の大学だよね?」

「うん、史学部の日本史科。平安末期、源平合戦の頃をメインにしてる」


平安末期、源平合戦という言葉を聞いて思い出すのは通学路の途中の丘。

高校受験の少し前、彼女が言っていた言葉。

『知ってる?この丘には昔、お城があったの。』

梅が咲く丘には、かつて平家の城があったという。


「そっか、昔言っていた梅の咲く丘に城があった時代?」

「覚えててくれたんだ。嬉しい。」


こちらを見上げる彼女の笑顔は、あの頃のまま変わらない。

他にも話したいことはあるはずなのに、何を言えばいいのか分からない。


「今ね、大学であのお城について調べてるの。今年は暖かいから、梅のつぼみも大きくなってきてるんだよ!」


彼女が動くたびに、その名と同じ桜の花が描かれた着物の袖が揺れる。


「だからさ、梅が咲いたらまた見に行かない?一緒に。」

「そう、だね。」


首をかしげてこちらを見るその笑顔は城の話を振った時と同じ。

真っ直ぐな瞳に射抜かれて、声がひっかかっりそうになった。

彼女はなにを思ったのだろう。


あの頃も、今も、自分はこの幼馴染との距離感をつかみかねている。


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