梅の花は咲き誇る
見月 知茶
梅の花は咲き誇る
2月の夕暮れの風が、ほのかに暖かい空気を容赦なく冷やしていく。
高校入試まであと2週間を切った。
のどかな田園風景と森が点在するこの通学路を自転車で走る日々も、あと1ヶ月もしないうちに終わる。
道の先に、人の姿があった。
見慣れた制服を着た、僕の幼馴染みの
梅の咲く小高い丘をじっと見ていた。
彼女は、僕に気付くと丘の上を指して「結構、咲いてきてるね」と言った。
この丘には、たくさんの梅の木が植えられていて、春になると近隣の町からも観光客が訪れる。
彼女の隣に立つと、また声がした。
「知ってる?この丘には 昔、お城があったの。」
小学生の頃に、そんな話を聞いたような気がするが、すっかり忘れていた。
「平安時代の末期、このお城には平家の武士たちが住んでいた。だけど、源平合戦の時に敗れて、それ以来長いこと放置されいたらしいよ。」
初めて聞いた話だった。
彼女が、これほど日本史に詳しいことも知らなかった。
「900年近く昔、ここでたくさんの人が戦って、亡くなった。
大昔、今住んでいる場所で何があったかなんて、考えたこともなかった。
「今、私達が生きているこの時も、遥かな未来の人からしたら、歴史の一部なんだろうね。」
今この時が歴史になる頃なんて、想像もできない。
「県外の高校に行くって聞いたけど、本当?」
桜子の不意な質問に、一瞬言葉が詰まった。
「…そうだよ。」
親の転勤に合わせて、隣県の高校に進学するつもりでいる。
「そっか…」
桜子は曖昧な笑を浮かべた。
「桜子は、隣町の高校?」
「うん。あまり遠くに行きたくはないからさ。」
「そっか。ずっとこの街にいるの?」
「…もし、この街を離れることがあっても、いずれ必ず帰ってくる。
ここが私の故郷であり、大好きな町だから。」
梅の花が咲き誇る、桜が咲くにはまだ早い季節。
この町を離れることが、少し惜しいと思った。
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