箱庭 


 ―――静かな朝だった。

 

 

 目が覚めて

 体を起こすと

 カーテンを開いた。

 

 明るい。

 

 真っ直ぐに降り注ぐ日差し。

 青一色の空。

 

 穏やかな町の風景。

 

 

 ベッドを抜け出すと

 部屋を出て

 そのままバスルームへ。

 昨夜の残り湯を追い焚きにかける。

 

 洗面所でうがいをする。

 歯ブラシを取り出すと

 歯磨き粉を乗せる。

 

 シャカシャカ…

 

 摩擦音だけが家中に泡立つ。

 

 口をすすぎ

 洗った歯ブラシで洗面台を叩く。

 

 カンカン…

 

 歯磨きを終えるとキッチンへ。

 

 食パンは残り2枚。

 トースターに挿す。

 冷蔵庫からマーガリンとジャム。

 

 玄関に向かう。

 鍵を捻り

 ドアを開ける。

 

 上天気の外は静かだ。

 まだ朝のひんやりとした空気が微かに残る。

 

 ポストから新聞を取る。

 

 家に戻るとキッチンから乾いた音。

 リビングの食卓に新聞を置く。

 トーストを皿に乗せ

 味をつけると

 席に着いた。

 

 特に変わったニュースも無く

 新聞を綴じると

 食べ終った皿を洗う。

 

 洗面所に行き

 服を脱ぎ

 バスルームに入った。

 

 体を洗うと風呂に浸かる。

 湯気が立ち昇る。

 曇りガラスの外は白く明るい。

 

 湯に心地好く抱かれながら

 目を閉じると

 とても静かだった。

 

 

 身支度を済ます。

 鞄を持つ。

 玄関に腰を下ろし

 靴を履く。

 

 ドアに鍵をかける。

 自転車に跨る。

 ペダルを踏み込み

 駅へと漕ぎ出した。

 

 町は静かだ。

 

 いつもの道を走りながら

 なんとなく思う。

 

 

 いつも、風はこんなに澄みきっていただろうか

 

 

 いつも、日差しはこんなに強かっただろうか

 

 

 いつも、空はこんなに青かっただろうか

 

 

 いつも街は、こんなに静かだっただろうか……

 

 

 

 大きな交差点。

 赤信号で止まる。

 

 車は来ない。

 無視して渡る。

 

 自転車置き場。

 進入すると

 サドルから降りた。

 

 管理人の姿はない。

 

 いつもの場所へ置く。

 やけに周りの自転車が少ない。

 

 駅へ歩く。

 誰ともすれ違わない。

 定期で改札を抜け

 エスカレーターで昇る。

 

 ホーム。

 

 誰もいない。

 

 胸に湧き上がる不安が

 視界を廻させる。

 

 ホームの端へ向かい

 壁の切れるところまで辿り着くと

 街を一望した。

 

 

 

 ―――世界は滅びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇパパ~ 新しいゲーム買って~」

 

「『進化の箱庭』はどうしたんだ? いま大人気だろ?」

 

「生物デリートしちゃった」

 

「もったいないな。なんでだい?」

 

「僕の星の文明、進化しすぎて宇宙まで飛び出してきちゃったんだ。このままだとスクリーンに届いちゃいそうだったから」

 

「そりゃ凄いな。ちゃんと全部デリートできたのかい?」

 

「うん」

 

 

「……たぶんネ」

 

 

 

 

 

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