指先 

 

 こうして指先で触れられるたびに

 あなたの想いを感じます。

 あなたが伝えたい誰に届くよりも先に

 私はその想いを感じます。

 この喜びを、たぶんあなたは気付いていないのでしょうね。


 ある日のあなたはとても悲しい言葉ばかりを紡ぎ

 私の心を深く痛めさせました。

 どうしてそんなに悲しいことばかり言うのかな?

 あなたの指先から現れるものは

 きっと本当に心のなかにあるものとは少し違う姿で

 私は形を変えたそれを受け取るばかりで

 私から手を伸ばすことはできない。

 もっと知ってあげたい……。


 ある日のあなたはとても楽しい言葉を聞かせてくれた。

 溢れてくる喜びは私に触れる指先にも現れていて

 その弾むような軽やかな感触で私は羽を与えられたように踊る。

 ああ

 なんて素敵な言葉ばかり教えてくれるのだろう。

 あなたの輝きが眩しいほど伝わってくる。

 私はやっぱり受け取るばかりで

 本当は手を取り合って一緒に踊りたいけれど

 そうしたらどんなに素敵だろうと思うけれど

 今もこうして心に思うことしかできません。

 もっと知ってもらいたい……。


 私を通して描き出したあなたの言葉を

 どれだけの人が受け取ってくれているのですか?

 私にはそこまでを知ることはできません。

 あなたの言葉で喜んでくれた人はいますか?

 あなたの言葉で涙した人はいますか?

 あなたの言葉で傷ついてしまった人はいませんか?

 あなたの言葉を愛してくれている人はいますか?


 あんなに悲しそうに

 あんなに楽しそうに打ち紡いだ言葉が

 想いが

 あなたの願うように大切な人たちに伝わらないことも

 たぶん、きっと、あるのでしょうね。

 でも知ってほしい。

 誰よりもあなたの言葉を知っている私のことを。

 一つ一つのキーに描かれた文字が

 少しずつ削れて消えてしまう。

 そのたびに私は、あなたを知ってきました。

 あなたの想いを。

 あなたの好きな言葉を。

 ねぇ、こんなにたくさん。


 これからもずっと、これからもたくさん、教えてください。

 あなたが嬉しくて、寂しくて、誰かに言葉を届けたいとき

 誰かに受け取ってほしいとき

 すぐそばで、こんなに近くで、誰よりも触れ合える場所で

 その心を最初に聞いているから。

 きっといつの日かあなたの言葉を文字に変えられなくなる日が来て

 そしてこの特等席からお別れをする時が来るまで

 ずっと感じさせてください。

 指先から溢れる想いを

 Enterキーを押し込む時の、その優しさや強さを。


 

 

 

 

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