TEST WARS
それはテスト中に起こった。
漢字テスト開始の合図直後、僕は気付いた。
シャーペンの中に芯が入っていない……!
急いでペンケースから芯を探すと、最後の一本があった。
50分間で50問の漢字を解かなくてはいけないということは1問1分、それが焦りとなったのだろう。
手から芯を零す。
机の上に落ちた芯を拾おうとしたが上手く摘まめない!
何故か昨晩きっちり爪を切ってしまったことを今さら呪うが後の祭り。
10回ほどチャレンジして頭が沸騰しかけたとき、机の上を転がして端から手のひらに落とせばいいことに気付き人生でもBEST5に入る怒りを覚えた。もちろん自分に対してだ。
ようやく無事に救出した芯をシャーペンに補充しようとして、今度は後部の消しゴムが綺麗に埋まっていて抜けないことに気付く。普段から消しゴムを取り出すのを面倒臭がって付属ので消していたツケがこんな時に回ってきた。
手に持っている芯を消しゴムに突き刺してテコの原理(?)で掻き出そうとするが、なかなか上手くいかない。
そして何回目かに……芯が真ん中辺りで折れた!
しかもそのまま片割れを取りこぼすと、床に弾んで転がり、隣の女子の椅子の下で止まった。そんなところにゴソゴソと手を伸ばそうものならもうテストどころか人生を失いかねない。
仕方なく残る半分の芯を消しゴムから引き抜き、そこでハッと気付いた。
シャーペンの先から逆流で入れれば良かっただけのこと!
自分の馬鹿さ加減にはらわたを煮えくりかえしながらそれを実行したその時……加減をミスって芯が折れた!
しばしそれを手に固まる僕はもしかしたら白髪になっていたんじゃないだろうかとすら思う。
そして短くなった芯はテスト用紙に押しつけるとシャーペンの中へと引っ込んでしまう。まるで僕を嘲笑うように……!
もはや僕の怒りは天をもつかみ取るほどのものだったが、今日のテストの為に色々なことを我慢して勉強してきた1週間が脳裏を過ぎる。
TVは勉強系(クイズ番組)しか見なかったし、ゲームも1日5時間から3時間に落とした。
友達の誘いも断って(女子がいる時だけは行ったけれど)、かなりストイックな1週間だったと自負している。それもこれもこのテストで52点以上取らないと中間とのトータルが赤点になるからだ(中間テストが8点だった)。
その努力は無駄にしちゃいけない!
僕はシャーペンから芯を引っぱり出し、最後の手段を使うことにした。
人差し指と親指で直接摘まみ、朽ちた吊り橋を渡る時のあの慎重さで用紙に解答を書き込み始めた!
すでに10分も浪費してしまっていたが、あと40分以内になんとか26問の正解を書き記さなくては僕に明日はない。
しかしこのテクニックは想像以上に高級技のようで、率直に言わせてもらえば文字を覚えた猿といい勝負の下手糞さだよ自分。
これを見て果たして先生が近代文字と認めてくれるかどうか、はなはだ心もとない。
そんなことを言っても「盤面この一手」……僕にはこうするしか方法がなかったんです。
残り3分。
回答出来たのは現時点で24問。
自分で言うのもなんだが勉強の成果は出ていた。あと2問……時間を止められるのなら悪魔とでも取引したい。
25問目の漢字を書き終えた瞬間、指先でポキッと絶望的な音がした!
まるで僕の心が折れたような音に聴こえたのはあながち間違えではないだろう。
次の問題が「ばんじきゅうす」なのが象徴的だ。
残り数秒。
そこで僕は世の中には気付かない方が幸せに死ねる事実があることに気付いた。
“先生に言ってシャーペン借りれば良かった……”
真っ白な世界の中で、美しい
テスト結果は6点でした。
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