life 

 

 トンテンカン

 ギコギコ

 トンテンカン……

 ギコギコ……

 毎朝通う道の途中に。

 この家が出来るまで、僕はどんな日々を過ごすだろう。

 きっと代わり映えのない繰り返しの中を、代わり映えのない僕のまま過ごすのだろう。

 一歩ごとに流れる景色。

 音は止まない。

 どこかで釘を打つ人がいる。

 姿は見えない。

 音は止まない。

 トンテンカン

 ギコギコ……

 

 

 白い土台は陽を受けて、僕は少しだけ目を細める。

 今日も通う道の途中。

 今日も家は育まれる。

 頭にタオルを巻いて働く大工さん。

 僕の日々は変わらない。

 彼の日々も変わらない。

 音は止まない。

 ガタゴト

 ガタゴト。

 音は止まない。

 

 

 風の強い朝。

 木柱の中を吹き抜けていく。

 たとえばそれが体なら、きっとこれは骨格で。

 肌がなければ寒さも感じないのかな。

 僕は少し襟を立てて。

 顔を伏せながら大工さんを探す。

 上手く見つけられなくても。

 木柱を擦り抜ける風が届けてくれた。

 トントントン

 トントントン……

 僕の日々も変わらない。

 

 

 雨色の空。

 分厚い天井。

 降りそそぐ冷たさの中で、僕は少し心を泳がせる。

 今日も代わり映えのない日を送るよ。

 君は今ごろどうしているだろう。

 同じ窓から町を眺めた日々。

 きっと忘れない。

 きっと君もそうだよね。

 青いシートに覆われて、今日は育たない家。

 雨は僕も彼も包み込んでいる。

 青いシートに跳ねる銀。

 パラパラパラ

 パラパラパラ……

 音は止まない。

 

 

 開けっ放しのドア。

 出入りを繰り返す大工さん。

 白いシャツに乾いたペンキ。

 肌も得た家が化粧をほどこしていく。

 今朝は賑やかな音じゃないけれど。

 そよ風の中にその匂い。

 もうすぐ終わる彼の成長。

 大工さんの今。

 ツンとした空気の傍。

 ちょっとだけ過ぎる名残惜しさ。

 僕は歩く。

 

 

 静かな夕暮れの中。

 朱い町の中。

 どこか泣きたくなるような雲の色。

 ずっと前の懐かしい日を浮かべる空。

 たとえ十年前でも。

 たとえ十年後でも。

 寂しい日は寂しい。

 優しい日は優しい。

 出会った人がいる代わりに、道分かれた人がいる。

 今日もまた愛しく想う日がくること。

 今日の僕はまだ分からない。

 変わらない日々の帰り道。

 あの家はとても綺麗に佇んでいた。

 取り囲むブロック塀も。

 誇らしげな表札も。

 少し上がったところに輝く玄関も。

 ここで誰かが新しい暮らしを始める。

 大工さんの日々は終わった。

 今は誰もいない家。

 止んだ音。

 

 

 一歩ごとに流れていく景色。

 夕焼けに染まる建物。

 僕は代わり映えのない日々を続ける。

 耳を澄ませばやっぱり聴こえる。

 音はそう、きっと止まない。

 トンテンカン

 ギコギコ

 ガタゴト

 トントントン

 パラパラパラ

 いつまでも。

 いつまでも。

 

 トンテンカン

 トンテンカン……

 

 営みの音。

 

 

 

 

 

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