窓下の花 

 

 窓と道。


 一本の通学路。


 向かい合って延びる塀。


 その道端にひっそりと揺れる、一輪の白い花。

 

 2階の出窓から少女は眺めていた。

 それは柔らかな陽ざしに包まれた、静かな午後。

 

 

 ふいに視界の端が賑わう。

 道の先から数人の少年たちが袋を片手に歩いてくる。

 小学校の課外授業の草むしり。

 

 少年たちはおしゃべりで盛り上がりながら道の端に生える雑草をむしっていく。

 少女は向かいの小さな花と少年たちを交互に見る。

 花と彼らの距離が少しずつ、少しずつ、近づいていく。

 

 

 おしゃべりの輪に加わらず一生懸命に除草していた一人の少年が先に下に着いた。

 少女は息を呑んで、祈るような気持ちで見守る。

 迷いなく次々とむしっていく少年がついに花に目を留めた。

 手に握る草を袋に押しこむとその場に屈む。

 そしてゆっくりと手を伸ばした。

 少女は声を上げそうになりながら小さく身を乗り出す。

 彼の体の陰から僅かに見える花は、

 一度茎を摘ままれて、

 それから優しく花びらを撫でられた。

 少年はそっと手を離すとしゃがんだまま見つめていた。

 

 少女はほっと胸を撫でおろして微笑んだ。

 

 

 遅れて喧騒が近づいてきた。

 穏やかな光景の中に賑やかな男の子たちが入ってくる。

 背中を丸めている少年を覗き込むと、彼が見つめている花に気付いて口々にからかい始める。

 彼が何かを言い返す。

 一人の合図で他の子が少年を羽交い絞めにした。

 少女は驚いて口を覆う。

 合図を出した子が花の茎を掴み、

 そして躊躇なく引っ張った。

 あっと言う間だった。

 小さく悲鳴をあげた少女は、握られたままの花を呆然と眺める。

 その男の子は笑いながら放り捨てると周りの子を引き連れて去って行った。

 

 

 解放された少年は彼らの背中を見えなくなるまで睨み続けていた。

 やがて握りしめた拳を開き、

 足元に落ちている花をそっと摘まみ上げた。

 

 横顔に浮かぶ悲しみの色……

 唇を噛んでその花びらを見つめていた少年の眦から、一粒の光が零れ落ちた。

 その姿を見守る少女の目にもまた、薄っすらと光が滲んだ。

 

 

 それは柔らかな陽ざしに包まれた、静かな午後。

 ふたりの瞳に映る白い花びらは、ゆらゆらと揺れて、きらきらと輝いていた。

 

 

 

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