石油奴隷の1日

バーデル国際大の資源、石油。それを採掘する作業員たちは、過酷な作業に対する皮肉から、自他共に石油奴隷と呼ばれている。そんな彼らは、どのような生活をしているのか。今日はベテラン石油奴隷のアブラクムさんの1日を追ってみよう。


アブラクムさんの朝は早い。夜明けと共に目覚め、軽く運動をする。この仕事は身体が資本だ。

「準備運動は必須ではないですがね、まあ、若い頃の癖みたいなもんですよ」


朝の運動が終わると朝食だ。アブラクムさんの今朝のメニューは蒸した巨大麦と焼いた魚、それと少しの野菜だ。タンパク質と炭水化物多めの食事からも、過酷な労働が想像できる。


食事が終わり作業場へと移動。全員が出揃うと、いよいよ作業開始だ。各自が、労働バー(手で押す棒が周りについている巨大な柱)の持ち場に付く。


「せいっ!のっ!」

「「「「セーイ!」」」」

隊長の掛け声で全員が労働バーを押す。労働バーは最初の挙動が一番大変だ。一度動けば、あとは慣性が効く。


「せいっ!のっ!」

「「「「セーイ!」」」」

再び隊長の掛け声で全員が労働バーを押す。じわじわと労働バーが動き出し、自然に加速し、一定の速度で回り始める。


回されたバーは油圧機構によって力を増し、大地を深く掘り進み、石油をすくい出す。そう、人力なのだ。


ここまでくれば、あとは歩くスピードをそのままにバーを押せば良い。延々と同じ所を周回し続けるのだ。気晴らしに会話をしながらバーを押す者もいる。アブラクムさんも同僚と新聞のニュースについてなど話しながらバーを回した。



……1時間か2時間かたった頃、最初の交代の時間がやってきた。バーの速度を維持したまま、次のメンバーとバーを交代する。こうして2班か3班程度で人員を交代ながら、日中はずっとバーを回す。


2度めの休憩時間のとき、アブラクムさんは数人の作業員とともに昼食に向かった。近くの市場におもむき、屋台で惣菜を買う。ここでも蒸した巨大麦は欠かせない。仲間とともに笑いながら食事をとるアブラクムさん。この時ばかりは笑みが溢れる。


それから午後、もう1時間か2時間労働バーを回し、日が暮れ始めた頃に今日の仕事が終わった。鍛え上げられた筋肉に汗が光る。仕事が終わった後はお楽しみの蒸し風呂の時間だ。


バーデル国は夜に火事場に火が灯り、その排熱が地下パイプを通じて町を温める。蒸し風呂も、その排熱パイプを利用したものだ。汗を流しながらアブラクムさんは語った。


「この仕事?そりゃあきついですよ。でもね、腕っ節1つでできる仕事だし金払いもひどくはない。石油奴隷なんて言われてますが、そりゃあ筋肉を使わない仕事をしていればそう思うでしょう。でも、俺は元重油騎兵乗りだったし、体を動かすのは嫌いじゃないんでね。俺みたいなやつにとっては、いい仕事ですよ」


アブラクムさんの目は、自信に満ちていた。


まだ町に火の光が灯るころ、アブラクムさんは床につく。石油奴隷の朝は早い。明日も夜明けとともに目覚めるのだ。

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