鉄火奴隷

砂漠の昼は死ぬほど暑く、砂漠の夜は死ぬほど寒い。その夜を温めるのが、鉄火奴隷である。彼らは夜毎に火を炊き、バーデルの王宮と城下町を温める。


無論、奴隷というのは通称だ。彼らは公務員であり、王宮からサラリーが出る。しかし、その労働は過酷の一言であり、自らこの職を選ぶものは少ない。


「「「「エーイ!」」」」

半分の屈強な鉄火奴隷達が声を上げ、一斉に足を踏み込む。


何十人もが同時に踏み込む巨大タタラが動き、凄まじい風を燃焼炉に送る。踏み上げられたタタラは、迎え撃つ対岸の鉄火奴隷たちの足を押し上げる。


「「「「エーイ!」」」」

続いてもう半分の屈強な鉄火奴隷達が声を上げ、一斉に足を踏み込む。


何十人もが同時に踏み込む巨大タタラが動き、凄まじい風を燃焼炉に送る。踏み上げられたタタラは、迎え撃つ対岸の鉄火奴隷たちの足を押し上げる。


鉄火奴隷の仕事は単純だ。体力の続く限り、タタラを踏む。タタラは燃焼炉に壮大な風を送り、炭の温度は上昇する。炭の温度が上がると、高熱が出る。高熱が出ると、製鉄ができる。更に予熱で製油ができる。更に予熱で王都が温まる。


砂漠の夜は寒い。昼間の灼熱からは想像もできないくらい温度が下がる。だから、夜にこそ熱が必要だ。鉄火奴隷達は、昼に涼しい地下で寝て、夕暮れと共に起き、タタラを踏む。


精油のための炭も、鉄を作るための鉄鉱石も、全ては外国からの輸入である。だが、これは決して損な取引ではない。むしろ、このバーデル国は、外国より優位だと言えよう。


世界は油圧で動いている。炭では油圧機構は動かない。鉄だけでは油圧機構は作れない。石油、すなわち油田が最大の価値を持つ。油田を持つバーデル国の経済は無限だ。全ては石油であり、石油が全てなのだ。


「「「「エーイ!」」」」

半分の屈強な鉄火奴隷達が声を上げ、一斉に足を踏み込む。


何十人もが同時に踏み込む巨大タタラが動き、凄まじい風を燃焼炉に送る。カーン!カーン!鉄を打つ音が響く。


鉄を打ち、火を灯す。ここは鉄火場。バーデル国の夜を支える過酷な闇だ。

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