重油騎兵コロシアム
油圧機構、それは人力を数倍に引き上げる脅威の機構。
重油騎兵、それは油圧機構で装備者の力を数倍に引き上げるパワードスーツ。
ここは重油騎兵コロシアム。重油騎兵の訓練を兼ねた国営賭博場でもある。今日も会場を埋め尽くす観客がひしめいている。
「ウオオーッ!ゴルガ!ヤッチマエーッ!」
声援を受けて”太陽の門”からエントリーしてきたのはゴルガが乗る重油騎兵。規定限界まで巨大化したその機体の動きは遅く、しかしそれを補って余るほどに力強い。
「アルバート!負けるな!技だ!技で勝てーッ!」
同じく声援を受けて”月の門”からエントリーしてきたのはアルバートが乗る重油騎兵。ゴルガに比べれば大人と子供ほどの体格差だが、足取りは軽快だ。
「両者見合って、構え!」
審判が宣言する。二人の距離はおよそ5メートル。相手を見据えて構える。もはや待ったなし。会場中が静まり返る……。
「発気良い!」
審判の掛け声!二人が同時に動く!
「イヤーッ!」
ズドン、ズドンと走り出したのはアルバート!油圧機構は出力を上げるほど速度を犠牲にしてパワーを上げる。素早いのは圧倒的に小型のアルバートだ!
ゴルガはアルバートを迎え撃つために動きを読む。出力は圧倒的にゴルガが上だ。アルバートの動きを読み切り組み合いに持ち込めば勝利は確実。
重油騎兵は大型になるほど相手の動きを読む事が必要になり熟練者向けだ。しかし、一度読み切ってしまえば圧倒的なパワーで敵をねじ伏せるのだ!
「イヤーッ!」
ゴルガは迎え撃つようにアルバートの腕を取りに行く!二人の動きは人間の動きに比べればまるでスローモーションだ。アルバートもそれを理解している。だが、重油騎兵の動きが追いつくか?
初めて重油騎兵を動かした兵士は、決まってこう言う。『来ることはわかっていても避けられない』と。重油騎兵の動きは、早くても人間の半分以下のスピードだ。相手のパンチが来ることを頭では理解していても、重油騎兵の動きはそれについてこれない。重油騎兵乗りにとっていちばん大切なものは筋肉で、二番目に大切なのが先を読む直感だ。
「イヤーッ!」
アルバートがゴルガのグラップリングを弾きに行く!ゴルガはこれに対応して腕を戻すことが……できない!
ゴォォォォォンッ!アルバートの左腕がゴルガの右腕を払い除けた!バランスを崩すゴルガ。
「チクショウ!イヤーッ!」
右足を下げてかろうじて転倒を防ぐゴルガ。重油騎兵コロシアムでは、転倒が敗北条件だ。実際の戦争でも、動きが緩慢な重油騎兵は、転ぶと起き上がる前に操縦席がこじ開けられて殺される。故に、転ばないことは重油騎兵乗りにとって重要な操縦技術なのだ。
「イヤーッ!」
アルバートの猛攻は止まらない!右腕でゴルガの胴に張り手を叩き込む!ゴォォォォォンッ!激しい衝突音!
「ふんぬッ!」
ゴルガはこれを耐える!何たる体格差のなす出力差か!
「このまま押し倒してくれるわ!」
ゴルガがアルバートの胴に張り手を叩き込まんとする!だが、その時だ!アルバートが体を捻った!
「なんだと!?」
目標を見失ったゴルガの張り手が空を切る!
「イヤーッ!」
アルバートはそのままゴルガの背中に腕を回し、全力で投げ打った!
「グワーッ!」
ズガァァァァァァァァァァァンッ!ゴルガ転倒!
「そこまで!”月の門”アルバートの勝利!」
審判の宣言!
「ワオオーッ!」
湧き上がる観客!
「……やはり強いなアルバート」
油圧機構を軋ませながらゴルガが立ち上がる。
「読みが当たるかどうかも運の内さ。今回は運が良かった」
アルバートはゴルガに手を差し出し、重油騎兵の起立を手伝う。
「その謙遜さも強さか」
「……そういうことにしておいてくれ」
戦いを終えた二体の重油騎兵は、それぞれの門へと下がっていた。
……数日後の戦争で、二人はチームを組むことになる。だが、それはまた別の話だ。
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