わずかな


「くだらん」

 暫時続いていた沈黙を、最初に破ったのは信長だった。

「貴様らのいう仏の教えとやらでは、一説によれば蚊を殺しただけでも地獄に落ちるというではないか。非とも獣も、他の者を殺して食って生きておる。なれば、人も獣も、だれひとり浄土にはいけんだろ」

 当然のことだった。

 生活というものは、えてして、殺生の上に成り立つものだ。

 犬一匹殺せば、毛皮は防寒にもなり、売れば金になる。骨を加工すれば生活用品となり、血肉は食らえば養分になる。

 娯楽を目的とした無益な殺生であればまた違うかもしれないが、殺生そのものを悪とする見方はあまりに横暴である。僧侶ほど仏教というものを知らぬ信長ゆえの、主張だった。

「わかったら、いまいちど休め。お前が全快になり次第、すぐに―――」

「吉法さま」

 その時、夕立がかつてなく強い語調で、信長の言葉を制した。

「――――」

 夕立は何か、言いたげである。

 何がしたい。

 そう言葉にしかけた刹那に、夕立は震える唇から言葉を紡ぎだした。

「燭台のともる夜は、やっぱり怖いので、一緒に寝て下さい」

 言葉にする夕立の顔は、どことなく青かった。





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