42
フェルパーの氷の刃に貫かれて。
ドラコは、少年の目の前で、どぅっと横倒しになる。刃が腹を貫通し、胴体に一見して分かるほどの大きな穴が開いていた。
首を絞める手からも力が失われ、少年もまた床に倒れる。
「うぅっ、げほ、ごほっ……!」
勝手に、あとから咳が出て止まらなかった。
「……ヒューマン!」
と、フェルパーが叫ぶ。
「大丈夫だ、だいじょう、ぶ……!」
肩で息をし、どうにか立ち上がろうとする少年。笑顔だけを貼り付けて、フェルパーに向かって手を上げようとするが。
「違うの! ドラコ、ドラコが……!」
「え――」
その瞬間、少年の全身に強烈な衝撃が走った。
「あ、ぁ……っ!?」
体が焼き切れそうな痛み……
朦朧としながらドラコを見る。
彼は、立ち上がっていた。
腹に大穴を開けられ、全身に傷を負いながらも、まだ。
そのドラコが、少年に向かって息を吹きかけている。
その息に、どうやら、電撃のようなものが含まれているらしい。静電気を千倍にしたような苦痛で、少年の全身が覆われていた。
(まだ、立てるのか……!? なんて……なんて、タフなんだ……この人は、化け物か……!?)
ドラコは、体をぐらつかせつつも、少年の体をすごい力で掴んだ。そしてフェルパーのほうへ向き直る。
のろのろと、ゆっくり彼女のほうへ向かう。少年を、盾代わりにしているようだった。
いくらドラコでも、瀕死の重傷のはずだが……。
全身が痺れた状態の少年では、振り払うことができない。
「よくも、よくも……っ! まだ……足りないというのか? この……この、悪魔、どもが……!」
ドラコは、呪いの言葉を吐いた。
「この世界は、地獄だ……! なにひとつ……なにひとつ、私の、思い通りには……ならん……っ! こんな、世界……っ!」
うわごとのように、途切れ途切れに、ドラコは続ける。
「貴様らなど、八つ裂きにして……壊して、くれる……!」
するどい爪の備わった手で、ドラコはフェルパーへと手を伸ばす――
が。
「……その汚い手を、離せえぇぇぇっ! 」
フェルパーは、杖で勢い良く突いた。
ドラコの手が弾かれ、彼の頭に杖の先端が突きつけられる。
「
その瞬間、早口で、彼女は攻撃呪文を唱えた。
杖の先から放たれた氷の大剣が、ドラコの頭を撃ち抜く。
「ガッ……!」
唾液が、ドラコの大口から、波飛沫のように飛び散った。
兜をとられ、彼の頭は剥き出しの状態だ。
胴体の穴を越えるほどの大穴が、彼の頭蓋に開けられた。
その瞬間、少年を掴むドラコの手から力が抜ける。
巨体が、倒れる。
地面に着地する寸前、その全身は、蒸気となって消え去った。重量級の鎧だけが、激しい音を立てて床に転がる。
そして、もちろん……
鎧の中で、赤いルビーが三つ。
衝撃で、マラカスのような音を立て、床に零れ落ちていた。
(倒した。倒し、たんだ……ドラコ、さんを……!)
頬に、涙がひとすじ、伝うのが分かる。
そして、彼自身の視界も真横になり、床に衝突した。
「……ヒューマン! ヒューマン!?」
少年の視界は、どんどん暗くなって、やがて何も見えなくなった。
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