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 ドラコは、重そうなこぶしで、のろのろと殴りかかってくる。

 少年は、難なくかわした。

 しかし、少年の頬には汗が滴りはじめる。

重力グラヴィティの効果が、もう解けかかってる……!?)

「貴様らに……私は、すべて奪われた……!」

 ドラコは亡霊のように叫び、近寄ってくる。斧を踏みつけて、少年に手を伸ばした。

「? う、奪ったって……そんな……! 俺らが、何を……!?」

「私は、すべて奪われた……何も、思い通りにはならなかった!」

「! で、でも、ドラコさんは……みんなを、守るって……! だから、俺だって――」

 少年の言葉をさえぎり、ドラコは狂ったように叫んだ。

「だまれ……黙れ黙れ、だまれぇっ! 今度は、今度こそは……私の番だ!」

 ドラコは、やや鈍い動きながらも、少年の首に向かって手を伸ばしてくる。

(まずい……!)

 少年は、とっさに逃げ出した。

 既に、少年の手でドラコをしとめるのは、無理だ。

 そう判断し、ドワーフの落としたルビー、フェアリーの落としたルビー、計3つを拾い上げる。

 自分の体内に吸収される前に、それを、フェルパーに向けて投げつけた。

「フェルパー!」 

 焦っていたためか、ひとつは、あらぬ方向へ飛んでいく。

 が、フェルパーは、残り二つを、それぞれ片手でキャッチした。

「……この下手くそ!」

「すまん! ともかく、早くそれを使え!」

 フェルパーはルビーを二つ体内に取り込む。すると、彼女の左手に、計三つの光が宿りはじめた。

「これは……!?」

「くっ……貴様ぁぁぁぁぁっ!」

 ドラコは激昂し、突進してくる。避ける間もないうちに、少年の首を掴んだ。

「うっ……あ……!?」

 ドラコの腕に怪我がなければ、瞬時に首を砕かれていたかもしれない――それほどの握力が、少年の首を握りつぶす。呼吸が苦しくなり、声が出なくなる。 

「ぐ、ぁ……あ!」

「ヒューマン!?」

 フェルパーの叫び声がする。が、顔がうっ血し、妙に聞き取りづらいように思えた。  

「ウガァァァぁぁぁぁぁっ! 貴様らを……この世界を、すべて、殺しつくしてやる!」

 ドラコのつんざくような叫び声。その合間を縫って、少年は必死に伝えた。

「や、れ……ふぇる、ぱー……っ!」

「……分かったわ!」

 フェルパーは、杖を構えた。


「私だって、あんたを……!」

 フェルパーは、ぼそっとつぶやく。

 彼女の魔力は、すべて使い果たされていた。

 しかし、レベルアップした彼女は、新たな呪文を習得している。それにともない、その分の呪文使用回数も、回復していた。

 そのうえ、既にフェルパーは、すべての魔術呪文を少年から教わっている。

 むろん、その中には、より強力な攻撃呪文の知識も含まれていた。

 もう不足はない。

 ヒューマンを助ける――そんな意識で、頭をいっぱいにして。

 魔力が、その意思を現実に変える。

氷の刃アイスエッジ!」

 呪文と共に、杖の先端から、氷でできた大剣が出現する。

 ドラコをめがけて、矢のように飛翔する。少年を手にかけることで夢中のドラコは、それに気づかない。

 やがて氷の刃は、ドラコのわき腹を鎧ごと撃ち抜いた。

「ぐぉ?! ぬ、ああぁぁぁぁぁぁぁっ……!」

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