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「……やばい、こっち来るぞ!」

 少年は急いで地面を蹴った。

 一行は、さらに曲がり角を2、3曲がるまで、逃走を続ける。

 しかしそれでも、飛行するフェアリーより速くは走れない。

 それに、第三階層の通路が、ほぼ一方通行であることも災いした。三人はフェアリーを撒くことができず、ついに手裏剣の射程内に入ってしまう。

 投げられた手裏剣を、フライパンを構え、頭を下げてやり過ごす。刻一刻と短くなる彼我の距離を、少しでも保とうと、脚が痛くなっても、少年は走った。

(何かないのか……! くそ、考えろ俺! 弱点とか、作戦とか……!)

「む、見ろ! あれは……!」

 とつぜん、ドワーフが前方を指差した。

 そこには、巨大な人影がいた。

 ダンジョンの天井に頭が届く――とまではいかないものの、手を伸ばせば届きそうなほどの体躯。

 全身に鎧をまとい、巨大な盾と剣を両手に構えている。

 二本の角と、爬虫類のような尻尾を生やして。

 じっとこちらを見ている。

 その見慣れた姿は、間違いなく、冒険者のひとり――騎士ナイトのドラコ、その人だった。

「うぉっ!? ドラコ、さん……!」

 少年は、走っていた勢いも手伝って、思わず飛び跳ねてしまった。

 ドラコも気づいたのだろう。すぐに、走ってこちらに駆けつけてくる。

(あれ? ドラコさんの防御力があれば……いけるんじゃね!?)

 にわかに、少年は作戦を思いつく。

 硬いドラコに盾になってもらい、その隙に他の三人で攻撃する――と、いうものだ。

 単純な作戦だが、しかし、こっちは四人で相手は一人。人数で大きく勝っている。

(よし、これなら……!)

 お互いに走っていたので、一行とドラコはすぐに合流した。

 少年は、急いで口を動かす。

「ドラコさん、あの、今ちょっとヤバくて! フェアリーが――」

 しかし、その言葉は、最後までいかずに終わった。

 代わりに、少年の口は驚きに大きく開かれる。

 ドラコは走った勢いを大剣に乗せ、とがった切っ先を突き出した。

「ぬぅっ……!?」

 ドワーフが、苦しげな音を立て、盾を構える。

 彼さえも、予想はできなかったのだろう。

 戸惑いの混じったドワーフの腕力を、ドラコの迷いのない大剣捌きが、かるく凌駕した。

 大剣は盾を破壊し、ドワーフの心臓を貫通した。

 くぐもった、声にならない声が、ドワーフの喉から搾り出される。

 あれほど体積のありそうだった、ドワーフの丸々とした肉体は、即座に消滅した。

 地面に崩れ落ちていく、装備品。そして、赤いルビー。

 その向こう側で、ドラコは一切の迷いなく手を伸ばしていた。

 ルビーに向けて……。

「な、に……!?」

 ドラコは、ルビーを奪いにきた。

 最初から、自分たちを襲いにきたのだ――

 そう悟って。

 少年は、そしてフェルパーも、その鋭い爪の先を、凝視することしか出来なかった。

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