37
「……やばい、こっち来るぞ!」
少年は急いで地面を蹴った。
一行は、さらに曲がり角を2、3曲がるまで、逃走を続ける。
しかしそれでも、飛行するフェアリーより速くは走れない。
それに、第三階層の通路が、ほぼ一方通行であることも災いした。三人はフェアリーを撒くことができず、ついに手裏剣の射程内に入ってしまう。
投げられた手裏剣を、フライパンを構え、頭を下げてやり過ごす。刻一刻と短くなる彼我の距離を、少しでも保とうと、脚が痛くなっても、少年は走った。
(何かないのか……! くそ、考えろ俺! 弱点とか、作戦とか……!)
「む、見ろ! あれは……!」
とつぜん、ドワーフが前方を指差した。
そこには、巨大な人影がいた。
ダンジョンの天井に頭が届く――とまではいかないものの、手を伸ばせば届きそうなほどの体躯。
全身に鎧をまとい、巨大な盾と剣を両手に構えている。
二本の角と、爬虫類のような尻尾を生やして。
じっとこちらを見ている。
その見慣れた姿は、間違いなく、冒険者のひとり――
「うぉっ!? ドラコ、さん……!」
少年は、走っていた勢いも手伝って、思わず飛び跳ねてしまった。
ドラコも気づいたのだろう。すぐに、走ってこちらに駆けつけてくる。
(あれ? ドラコさんの防御力があれば……いけるんじゃね!?)
にわかに、少年は作戦を思いつく。
硬いドラコに盾になってもらい、その隙に他の三人で攻撃する――と、いうものだ。
単純な作戦だが、しかし、こっちは四人で相手は一人。人数で大きく勝っている。
(よし、これなら……!)
お互いに走っていたので、一行とドラコはすぐに合流した。
少年は、急いで口を動かす。
「ドラコさん、あの、今ちょっとヤバくて! フェアリーが――」
しかし、その言葉は、最後までいかずに終わった。
代わりに、少年の口は驚きに大きく開かれる。
ドラコは走った勢いを大剣に乗せ、とがった切っ先を突き出した。
「ぬぅっ……!?」
ドワーフが、苦しげな音を立て、盾を構える。
彼さえも、予想はできなかったのだろう。
戸惑いの混じったドワーフの腕力を、ドラコの迷いのない大剣捌きが、かるく凌駕した。
大剣は盾を破壊し、ドワーフの心臓を貫通した。
くぐもった、声にならない声が、ドワーフの喉から搾り出される。
あれほど体積のありそうだった、ドワーフの丸々とした肉体は、即座に消滅した。
地面に崩れ落ちていく、装備品。そして、赤いルビー。
その向こう側で、ドラコは一切の迷いなく手を伸ばしていた。
ルビーに向けて……。
「な、に……!?」
ドラコは、ルビーを奪いにきた。
最初から、自分たちを襲いにきたのだ――
そう悟って。
少年は、そしてフェルパーも、その鋭い爪の先を、凝視することしか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます