31

「あ~~~~~っ! ない! ない! ない! なんもないっ、なんもないったらなんもない!」

「黙れ」

 少年は、頭を抱えて叫びまくる。

 フェルパーは、そんな彼を冷たくにらんでいた。

 どこかに手がかりはないか――と、二人は探し回っていたのに、一向に何も見つからなかったのだ。

「何が、『脱出する方法はある』よ」

「す、スマン」

 少年は、フェルパーの目線が痛くて、目をそらした。

(おかしいなぁ……絶対、なにかあると思ったんだけど)

 こういう謎解きのようなものを必死に考えていると、頭が重くなってくる。

 そのうえ、一緒にいるのはフェルパーだ。少年はたまらなくなった。

「はぁ~~~っ……いったん休憩」

 壁によりかかり、床に車座で腰掛ける。

 するとフェルパーも、自分だけ立っているのは損だとでも思ったのか、すぐに座った。もっとも座る場所は、部屋の中央をはさんで、少年の場所から反対側。やたらに距離があった。

「……大丈夫なんでしょうね?」

 急に、フェルパーが真剣な雰囲気で聞いた。

 彼女のするどい目線に、少年はトラウマを思い出して、とっさに土下座したくなる衝動にかられる。

「ま、まぁ……大丈夫だと思うぞ」

「根拠は?」

「大船に……乗ったつもりでいてくれよ」

「聞いてる?」

 フェルパーは、しつこかった。

「き、聞いてます。……ほら、その、経験から来る勘というか。そういうのってあるだろ?」

「経験」

 フェルパーは、目をしばたかせた。

「いったい、何をどう経験したの? ダンジョンに入った者なんて、私達がはじめてのはずだけど」

「え、えと……い、異国には、ダンジョンがいっぱいあってさ。あ、アハハハ……」

 少年は、ごまかし笑いをした。

 フェルパーは、詐欺師を見る目をした。

「いや、そんな疑わないでよ。だいたい、俺がいなかったら、お前はこの状況ひとりでなんとかできんのか?」

「私を脅すつもり?」

 自分の専売特許を盗られるのが我慢ならなかったらしく、フェルパーは杖の先に小さな炎を宿らせ、少年に向けた。

ファイヤー――」

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 大声を出して、少年は呪文をかき消した。

「うるさい……」

「なら人を燃やそうとするのやめろや」

 少年は、ちょっと喉が痛くなった。そう何度も使える手ではなさそうだ。

「いや、ガチで俺は騙してないからね? 詐欺師じゃないから。ええと……まぁ、ゲーム……というか一人遊びにハマり過ぎて、友達少なくなっちゃっただけで、普通の男子高校生だから信じろ!」

「嫌」

 フェルパーはひとことで答えた。

「うぅ……。でも、ほら。人の弱点とかを知ると、親しみを感じるって言うだろ? 俺にそういうの感じないか?」 

「むしろ、憎しみを感じるわ」

「そうですか……」 

 少年は、あきらめて口を閉じた。

 すこし騒ぎすぎたかもしれないと、少年は考え直す。

 密室で、少女と二人きりで一夜を明かした。

 ――という状況のせいで、テンションが少々おかしいのかもしれない。

 自覚すると、なぜだか、修学旅行みたいに騒いだのがバカらしく思える。

 急に、スッと醒めて、目の前の少女が、ただの面倒くさい猫耳コスプレイヤーにしか見えなくなってきた。

「……つーか、ぶっちゃけお前も友達いなそうだよな。怖いし」

「っ!?」

 すると、フェルパーは耳をビクンと伸ばした。

 立ち上がって、

「……うるさい! 友達なんて要らない。邪魔なだけよ!」

 と、怒鳴る。

「え……?」

 フェルパーの怒りは、出会ってからわずかなのに、もう見慣れていた。

 だが、こんな怒り方は覚えがない。

 普段の怒りは、相手を遠ざけるための手段、という風だった。

 そんなんだから、どうせ友達もいないだろう――と、少年は推測したくらいなのだが。

「……なんとか言ったらどうなの」

 フェルパーの視線が刺さりまくっているのを感じ、少年は、手で○を描いてバリアーを張った。

「……あ、いや。なんか、ごめんな……うん」

「謝るな!」

「なら謝らせんな、おい!」

 フェルパーは、また杖を握って、少年に向ける。

 少年は、フライパンで顔を防御しなくてはいけなかった。

「ま、まぁ……別に、気にしなくていいんじゃね。俺も友達少なかったけど、いろいろゲームやってたし、自分的には充実してたからな」

(なんで異世界に来て、人生相談なんかしてんだ俺は……?)

 フェルパーは腰掛ける。

 うち股気味だった。

「き、気にするなよ。友達なんかいなくても、生きてけるって!」

(お前の態度は、ぜったい治したほうがいいけどな)

「……あんたなんかと、一緒にするな」

「してない」

「してる」

「してねぇよ。お前のほうが友達少ないんだから、一緒じゃ無い」

「……なお悪いわよ!」

 フェルパーは、床に落ちていた石ころを少年へ投げつけた。少年の、すぐ近くをかすめて飛んでいく。

「うわっ?! 何す――」

 壁に跳ね返った石は、天井にまで当たる。

 その時、少年は言葉を失った。

 立ち上がり、天井を凝視する。

「何してるの」 

「……見つけたぞ、答えを!」

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