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(どうせ、こいつだって)
フェルパーは、ヒューマンを見下ろして顔をしかめた。
ダンジョンに入ってから三日目の、朝のことだった。
彼女は、いまだ密室の中にいる。
唯一の同居人であるヒューマンの少年は、目線を下げている。それをいいことに、さっきから彼をじっと観察していた。
(どうせ、そのうち尻尾を出すでしょう……)
と、間の悪いことに、彼が顔を上げた。フェルパーと目が合う。
「ん、どうかしたか」
「別に」
「……そうか?」
ヒューマンは、ちょっと不審げに目を細めたが、すぐに元に戻る。
「それより……お前の呪文のこと、だいたい分かったよ」
「本当に?」
フェルパーは、耳を疑った。
少年は羊皮紙を裏返す。そこには、魔術呪文がいくつも記されていた。
「これが、
「ぜ、ぜんぶ……!?」
紙を受け取りながら、フェルパーはなおも信じられず、急いで紙に目を通していく。
「――うん。でも、まだフェルパーはレベル1だからなぁ……。レベルアップしたら、強い呪文も使えるんじゃね?」
ヒューマンの少年は、当たり前のように言った。
彼は、魔法など使えない(どころか何の特技もない)
フェルパーは、ヒューマンのことが分かったつもりで、何かよく分からなくなった。
「さてと、次は!」
「……?」
ヒューマンが景気良く立ち上がる。
「――まず、この部屋から脱出しないとな!」
「脱出? ムリに決まってるわよ」
フェルパーは毒づいた。
(こいつ……バカなのか)
「いや、できる」
だが少年は、少しだけ胸を張って、いかにも自信ありげだ。フェルパーは、とても彼のような気分になれなかった。
「どうして、そう言い切れる?」
「んー……こういう罠って、普通はなにか、脱出する方法が用意されてるもんだから。そうじゃなきゃ、クソゲー過ぎて売れないからな」
「クソ、ゲー……? 売れる?」
意味不明な単語を、フェルパーはおうむ返しにした。
「あ、いや、それはこっちの話だし、気にするな!」
「???」
そして、ヒューマンに促されるまま、フェルパーは床や壁をくまなく探し始める。
隠しボタンがないか探す、というのだ。
そんなものがあるかもしれない――ということ自体、フェルパーには全くなかった発想だった。
(確かに……こいつは、ここでは頼りになるかもしれない)
床を探しているはずが、彼女は上の空になる。目は、どこか遠くに焦点が合っていた。
(この部屋から出るまでは、生かしておいてやってもいい……かもね)
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