27

 的確に突かれた必殺の一撃。

 避ける体力も、防ぐ防具もない。

 だが、まだ希望はあった。 

 ドラコは、倒れこみそうな体で、限界まで息を吸い込む。

 大雑把にハーフリンクがいる方向へと、息を吹き付けた。 

 その吐息は、大部屋の一角を満たすほど、一気に広がる。

 すると……

「…………!?」

 ハーフリンクが、固まった。

 まるで、雷に打たれたかのように。

 それは、なかば比喩ではない。実際に、ドラコの吐息には、雷にも匹敵するほどの高電圧が含まれていた。

 ハーフリンクの全身の筋肉は、熱で焼き焦がされ、あるいは引きつり固まる。

 飛び掛る瞬間の不安定な姿勢で、彫像のように、彼は床へ急墜落する。

 膝が曲がり、短剣を握ったまま。

 眼球が乾いていくのに、まぶたを開けたまま。

 心臓さえ動かせず、ぴたりと止まったまま。

「……! ……!」

 絶叫したくても、口が、舌が動かない。 

 ついには神経が焼ききれ、ハーフリンクの意識は消失した。そして、彼の小柄な体が、瞬時に塵へと変わり、消え去る。 

 カラン、と短剣が落ちて。

 後に、彼の背嚢や服がパサリと落ちる。

 そして、異様に赤く輝くルビーのかけらも二つ、残されていた。

 「竜の息吹」――それは、ドラゴンが吐き出す死の吐息。

 時にそれは、街ひとつさえ根だやしにできるという。

 そしてその技能は、ドラゴンと人のハーフである彼にも、「雷撃の息吹」という形で受け継がれていた。


 ドラコは、しばらく気絶していた。

 目を覚ましてからも、立つことができなかった。

 かたつむりのように、ゆっくり、ゆっくりと床を這いずる。

 たっぷり十分はかけて、遺品の所にたどり着いた。

 二つの赤いルビーが、ひとりでに彼の心臓に吸い込まれる。そして左手の甲には、毒々しい赤い模様が三つ、刻みこまれた。

「私は……」

 さらに、ハーフリンクの背嚢を漁る。

 その中にあった傷薬を使うと、彼の傷は、一気に回復した。

 薬の量が足りないのか、片目だけは、いまだつぶれたままだったが……

「私は……っ!」 

 息吹ブレス……仲間を守るための、その武器で。

 あろうことか彼は、味方だった冒険者を葬り去ったのだ。

「……あぁ、あぁ! あああ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!」

 体は、ほぼ快癒したというのに。

 彼の精神だけは、慟哭と共に深遠へと沈んでいった。

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