24

 ハーフリンクは、ある提案をした。

 いちど、生き残った者たちで第二階層に合流し、あらためて協力してダンジョンを進もう――というものだった。

 ドワーフも、ドラコも、即座にそれを了承する。

「――で、ヒューマンのにいちゃんも、もちろん参加するだろ?」

「え!? あ~……俺は、実はいま、小部屋に閉じ込められちゃってるんだよ」

 少年は、頭をぼりぼり掻きつつ、フェルパーのほうをチラッと見た。

 彼女は横目で、少年をじっと監視していた。微妙に、目が合ってしまう。

 なんだか内股に鳥肌が立って、少年は顔をそらした。寒くもないのに、手をこすり合わせる。

「……まずは、そこから脱出するよ。とりあえず、今は三人で合流しといてくれ」


 夢から覚める間際。

 ハーフリンクとドワーフは、目を覚ましたのか、夢の世界から消えた。

 同じく消えようとするドラコへ、少年は話しかける。

「あの、ドラコさん」

「君か」

 既に、ドラコはヘルムをかぶっていた。表情はうかがえない。

「あのあと、無事だったようだな」

 ドラコの呼気が、ヘルムの隙間から漏れるのが分かった。

「君の慧眼と機転には、つくづく驚かされている」

「いえ、そんなこと……。ぜんぶ、ノームさんのおかげです」

 少年は頭を下げた。

「本当に。俺のせいで――」

「顔を上げたまえ」

 ドラコは、少年の肩を軽く叩いた。するどい爪の生えた大きな手のひらは、少年の二の腕まるごと包み込みそうだ。

「彼女は誰のためであろうと、ああしたはずだ」

「でも……」

「気になるか」

 ドラコは、少年に手を差し出した。

 促されるままに、握手する。少年の手がちぎれそうなくらい、彼の力は強かった。

「ならば、彼女に助けられた君の命、こんどは、他の者を助けるために使いたまえ」

「は、はい……!」

「無論、私も」

 ドラコは、一歩下がった。背中に背負った大剣を抜き放ち、掲げる。

「私は、騎士……騎士だ。……騎士として、この命、仲間に捧げてみせる。必ず、生きて再びまみえよう。ヒューマン」     

 その言葉を最後に、ドラコは夢の中から消えた。

 最後に残ったのは、少年とフェルパーだけ。

「じゃ、戻るか」

「……」

 フェルパーは、考え込むように少年とドラコのいた場所を見つめている。

「なんだよ? お前の居場所は、バラさなかっただろ」

 少年は、すこし焦り気味に言った。

「私がどこにいるかを皆にバラしたら、燃やしてやる」と、さきほどフェルパーから脅されていたのだ。 

 とにかく、彼女は、ほかの冒険者たちから距離をおきたいらしい。

 こんな時に、たった一人でどうするつもりだよ――と、少年は言いたくてウズウズした。

 が、ぶるっと体が震えてしまい、やっぱり取りやめる。

 攻撃呪文で燃やされるなんて、拷問みたいなのは二度とごめんだった。

「いや」

 フェルパーは怒った様子もなく、首を振る。

 しっぽを、「?」マークみたいにしきりに波打たせて、

「……あの竜でも、怒ることがあるのね」

「え、そっち……?」

 単なる雑談と分かって、少年は緊張を解いた。

「お前、ドラコさんをなんだと思ってんだよ」

「ただの堅物でしょう」

 少年は、思わず半目になった。

 言わないほうがいい――と知りつつ、どうしても我慢できずに、

「……あれが堅物なら、お前はなんだ? 鉱物か?」

 

 数分後、少年は、頭に物をぶつけられた衝撃で目を覚ました。

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