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「――いやぁ、あの宝石、高く売れると思ったんだけど。これじゃ売りようがないや。あはは! はは、はっ……」

 と、ハーフリンクが、ぎこちなく笑った。

 ロリが去った後、残された冒険者たちは、夢の中でなおも話し合いをしている。

 女神の口ぶりからすると、フェアリーもまだ生きているようだ。が、彼女は来ていない。

 いるのは、少年、ドワーフ、ハーフリンク、そしてフェルパーとドラコの五人。

 フェルパーは、参加してはいるが、少し離れたところで、他の四人に体の横を見せつけ黙っている。

 ドラコも無事。彼は、少年がワープで消えた直後、フェアリーの隙をつき逃げおおせたらしい。

「何を言っている……?」

 そのドラコが、ゆっくりと口を開いた。

 声は大きくはない……が、密室で何十回と反響したように、低くとどろいた。

 少年は、ぎょっとさせられた。

 いきなり、何か地雷が踏まれたような気がした。

「貴様のそのルビーは、もともと陛下の物だろう。あろうことか……それを売り払おうとは!」

 ドラコは、ハーフリンクを見下ろし、細い瞳孔でにらみつけた。

「いっ……いやぁ、もちろん冗談だってば! ほ、ほら、おいら暗い雰囲気とか、苦手だし――」

「冗談、だと!?」

 ドラコは、盾を地面に叩きつけた。全員が――フェルパーも含めて、ぎくりと肩を震わせる。

「陛下は、お前たちのために命を捨てられたのだ。……そのような事、冗談でも口にして良いと思うのか!? 汚らわしい……貴様の底が知れるぞ!」

 ハーフリンクは、そして他の冒険者も、声を荒げるドラコにただ圧倒される。指一本動かせない。

「……ご、ごめんよ」

「ごめんでは済まん! そもそも貴様は、何度言っても、改めたことなどないだろう! ……そんな者に、神託を受けし冒険者の資格はない!」

「……っ」

 ハーフリンクは、少し腰が引けていた。震え声で、

「いや、ほ、ほら……おいらって、育ち悪いからさ。え、えっと……」

 口が回らなくなった彼を見て、ドラコはふと我に返ったらしい。

 気まずそうに、少々顔をそむけた。

「で、でも……エルフ様のルビーは、勝手においらの体に入ったっぽいし。それは、おいらのせいじゃないぜ? まさか、心臓を外してでも返せとか……言わないよね?」

「……無論だ」

 ドラコは、軽く頭を下げて、

「陛下のルビーを奪還したことには……感謝している」

 それだけすばやく言うと、放られた盾を拾い上げる。また、だんまりに戻った。

 そして、いたたまれない沈黙……少年は、胃が痛くなりそうだった。

「そ、それにしても。あの女神のやつ、なんだか、おいらたちを仲間割れさせたいみたいだったね……」

「フン! 何度言われようと、わしはそうはならんぞ」

 と、ドワーフが薄く笑う。

「あんなちっこい女神の言うことなど、誰が聞いてやるものか!」

「お~! さすがおっちゃん、そうそう、そうだよね! おいらたち、そんなにヤワじゃぁないよ!」

 ハーフリンクとドワーフは、頭上で景気良くハイタッチする。

「……それでさぁ、みんな。おいら、ちょっといい考えがあるんだけど。聞いてくれるかい?」

 彼は、小さな体で他の四人の前に立つ。うれしそうに、両腕をぱっと広げて見せた。

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