23
「――いやぁ、あの宝石、高く売れると思ったんだけど。これじゃ売りようがないや。あはは! はは、はっ……」
と、ハーフリンクが、ぎこちなく笑った。
ロリが去った後、残された冒険者たちは、夢の中でなおも話し合いをしている。
女神の口ぶりからすると、フェアリーもまだ生きているようだ。が、彼女は来ていない。
いるのは、少年、ドワーフ、ハーフリンク、そしてフェルパーとドラコの五人。
フェルパーは、参加してはいるが、少し離れたところで、他の四人に体の横を見せつけ黙っている。
ドラコも無事。彼は、少年がワープで消えた直後、フェアリーの隙をつき逃げおおせたらしい。
「何を言っている……?」
そのドラコが、ゆっくりと口を開いた。
声は大きくはない……が、密室で何十回と反響したように、低くとどろいた。
少年は、ぎょっとさせられた。
いきなり、何か地雷が踏まれたような気がした。
「貴様のそのルビーは、もともと陛下の物だろう。あろうことか……それを売り払おうとは!」
ドラコは、ハーフリンクを見下ろし、細い瞳孔でにらみつけた。
「いっ……いやぁ、もちろん冗談だってば! ほ、ほら、おいら暗い雰囲気とか、苦手だし――」
「冗談、だと!?」
ドラコは、盾を地面に叩きつけた。全員が――フェルパーも含めて、ぎくりと肩を震わせる。
「陛下は、お前たちのために命を捨てられたのだ。……そのような事、冗談でも口にして良いと思うのか!? 汚らわしい……貴様の底が知れるぞ!」
ハーフリンクは、そして他の冒険者も、声を荒げるドラコにただ圧倒される。指一本動かせない。
「……ご、ごめんよ」
「ごめんでは済まん! そもそも貴様は、何度言っても、改めたことなどないだろう! ……そんな者に、神託を受けし冒険者の資格はない!」
「……っ」
ハーフリンクは、少し腰が引けていた。震え声で、
「いや、ほ、ほら……おいらって、育ち悪いからさ。え、えっと……」
口が回らなくなった彼を見て、ドラコはふと我に返ったらしい。
気まずそうに、少々顔をそむけた。
「で、でも……エルフ様のルビーは、勝手においらの体に入ったっぽいし。それは、おいらのせいじゃないぜ? まさか、心臓を外してでも返せとか……言わないよね?」
「……無論だ」
ドラコは、軽く頭を下げて、
「陛下のルビーを奪還したことには……感謝している」
それだけすばやく言うと、放られた盾を拾い上げる。また、だんまりに戻った。
そして、いたたまれない沈黙……少年は、胃が痛くなりそうだった。
「そ、それにしても。あの女神のやつ、なんだか、おいらたちを仲間割れさせたいみたいだったね……」
「フン! 何度言われようと、わしはそうはならんぞ」
と、ドワーフが薄く笑う。
「あんなちっこい女神の言うことなど、誰が聞いてやるものか!」
「お~! さすがおっちゃん、そうそう、そうだよね! おいらたち、そんなにヤワじゃぁないよ!」
ハーフリンクとドワーフは、頭上で景気良くハイタッチする。
「……それでさぁ、みんな。おいら、ちょっといい考えがあるんだけど。聞いてくれるかい?」
彼は、小さな体で他の四人の前に立つ。うれしそうに、両腕をぱっと広げて見せた。
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