15
ドワーフのすぐ前で、野生のコヨーテが牙を剥いた。彼の足首めがけて、突進してくる。
が、
「わしを甘く見るなよ、この犬っころがぁっ!」
ひげを振り乱して、彼は叫んだ。
自分の身長ほどもある斧を、片手で叩き降ろす。
コヨーテは脳天をかち割られたかと思うと、またたくまに、空気中に融けてなくなった。
彼は、先ほどから、モンスターとの戦闘続きだ。
ダンジョン内の小部屋を次々開けては、中のモンスターに鉢合わせしていたのだ。
しかし、ある時、彼の努力は実をむすぶ。ついに、敵以外のものを見つけた。
「おぉ! お前さんか!」
散り散りになった仲間のひとり、
彼女は、壁際に座り込んでいる。マントで体を覆い隠していた。
が、ドワーフに気づいて、すばやく顔を上げた。
「いやはや! 小部屋を探しとりゃ、いつか行き当たると思っとったよ。予想通りだ」
「……」
フェルパーは答えない。半目で、ドワーフをじっと見つめる。
沈黙が長すぎて、ドワーフはまた口を開いた。
「……ん、わしか? わしは、じっとしとるのは性に合わんからな。こうして、探し回っておったのよ」
抜き身の斧を抱えたまま、部屋に入る。
が……敷居をまたいだところで、立ち止まった。
フェルパーが、マントの下から手を出した。杖を、まっすぐドワーフに向けている。
「入るな!」
と、吐き捨てるように叫んだ。
耳としっぽがピンととがり、瞳孔は目の中で燃え上がっている。
ドワーフは、意外感を覚え、一瞬言いよどむ。
「……そりゃ、何の真似だ? フェルパーの嬢ちゃん」
「今すぐ出ていけ」
フェルパーは、どすの効いた声で言った。
ジョークで済ませられる範囲は、とっくに超えている。本気なのだ――としか、ドワーフには思えなかった。
「ま、まさか……お前さん、わしが危害を加えるとでも思っとるのか?」
斧を背中におさめて、ドワーフは半歩だけ後退する。
「ずいぶんと、下衆に思われたもんだな……。わしらは仲間だろう?」
「……うるさい」
フェルパーは、ドワーフの目も見ない。取り付く島もなかった。
ドワーフは、ごほんと咳払いした。
「なぁ、あの女神の言ったことを、真に受けとるのか? だが、あの女神……あれはちと、どこかイカれとると思うぞ」
精一杯やわらかい調子で言い、彼は「降参」の合図で、両手をあげた。
「わしは、味方を手にかけるために、こんないやな所を駆けずり回ってたんじゃないぞ」
「……」
説得が功を奏したのか、フェルパーは杖を少しだけ下げた。
それに気をよくして、ドワーフは再び部屋に入る。
「数日後には出れるようだが……でも、モンスターはその辺にうろうろおったな。協力したほうが、何かと――」
が、部屋に入ったことは、またフェルパーを激昂させたらしい。彼女はいらだたしげに、杖の先端を向けて――
「
と、呪文を詠唱した。
「んぉっ!?」
杖の先端から火球が解き放たれ、ドワーフの足元の床が真っ黒に焦げる。ちょくせつ当たってはいないが、靴ごしに熱が伝わり、ドワーフは汗をかいた。
「次は外さない。消えろ」
「ま、待て! 待てというに!」
彼は、あわあわして、軽く舌を噛んだ。
「おっ……お前さん、わしよりも、あの女神の言うことを信じるのか!?」
「……こんな時に、もう誰も信じられるか! はやく私の前から……滅びろ!」
フェルパーは、牙を剥いて叫んだ。
火球が目の前に迫り――
ドワーフは、泡を食って小部屋を飛び出してしまう。彼が閉めた扉の内側で、火球が弾けるはげしい音がした。
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