第三章:次なる犠牲者

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 数週間前――冒険者達が、まだダンジョンに足を踏み入れる前のこと。

 彼らは、王都アンヴェルダの王宮に勢ぞろいしていた。

「ではエルフ様、その方が……?」

「あぁ、そうだよ。この少年が、ロリ様の神託に選ばれた最後の冒険者、ヒューマンだ。さ、少年」

 エルフは、少年の肩をぽんと叩いた。

 彼は、ゆっくり前に進み出て、

「……ど、ども、ヒューマンです、よろしくお願いします! ち、地球って所から、美少女をゲットするために……ぃ~じゃなくって、ともかくダンジョン探索がんばります!」

 生まれてはじめてナマで見るファンタジー種族たちに緊張し、少年のお辞儀はちょっと角ばっていた。

「まぁ、そんなに硬くならないで」

「は、はいっ!」

「なんだか、あれだ……今の君、トイレ我慢してるみたいだよ」

「ま、マジすか」

 少年は、リラックスしようと肩をまわした。

「いやぁ、それにしても。みんなキレイにべつべつの種族になったね。これで八人目もエルフ族だったら、あたし隙を見て、夜道でばっさりヤっちゃってたかもね? 何せ、目立てないしね。アハハハっ!」

 他の冒険者たちは、どっと吹きだした。少年も、すこし乾いた笑いを発する。

「少しは、緊張解けた?」

 エルフは、少年にだけ聞こえる声でささやいた。

「え、えぇ……まぁ」

「なら良かった」

 エルフは、からっと笑った。

(面白い人だなぁ……)

 冒険者たちが静まると、彼女は、全員に紙を配り始める。

「八人そろったんで、ロリ様がみんなの職業ジョブを教えてくれたよ。名簿にしたから、配っとくね」

「む? わしの職業は炭鉱夫ワーカーだが。いまさら、他人に教えてもらう必要などないぞ」

 と、ドワーフが横柄に言った。

「うーん、そういう一般的な職業じゃなくって。冒険者として、パーティでどんな役割を担当するか? っていう意味みたいね」

「ほほう」

 少年も、その名簿を受け取る。そこには、こう記されていた。

 

「エルフ・女 司教ビショップ


 竜人ドラコ・男 騎士ナイト


 地精霊ノーム・女 僧侶プリーステス


 ドワーフ・男 戦士ファイター


 小人ハーフリンク・男 盗賊ローグ


 妖精フェアリー・女 忍者ニンジャ

 

 獣人フェルパー・女 魔法使いメイジ


「お、おぉ……!」

 少年は、感動した。

 どの種族も、それからどの職業も、ダンジョンRPGで見慣れたものばかりだ。

 それに、ダンジョン探索に必要な職業はすべてそろっているように思える。

(うんうん。これなら、魔王だってそのうち、絶対倒せるな! よし、いい旅になりそうだ。……ん?)

 少年は、名簿の最後に目を向けた。

 そこには、彼自身のことが記されている。


人間ヒューマン・男 観光客ツーリスト


 彼は、目を皿のようにして眺める。

 しかし、「観光客」という文字は、さっぱり変わらなかった。

「……は、はぁぁぁぁぁぁっ!? なんじゃこりゃぁ!?」  

 少年は吠えた。

「ん、どしたの? いきなり盛り上がっちゃって」

 と、エルフが不思議そうに尋ねる。

「す、すいません、なんか俺のところ間違ってるんですけど! 変なこと書いてあるんですけどっ!」

「え? 別に間違ってないよ? いやぁ、観光客ツーリストって、どんな特技があるんだろうね。あ、そうそう」

 エルフは少年のことなど気にせず、他の冒険者たちに微笑んだ。

「ね、みんな。ロリ様が装備品も下さったよ。自分のを取っていってね」

 と、床に置かれた武器・防具を指す。冒険者たちは、それぞれ真新しい武器を手に取った。

「ほほう、わしは斧か」

「おいらは短剣だね」

「あたちは、お星さまぁ☆」

「私は戦棍メイスのようです」

 そのほか、革製、鉄製の防具などを着込み、皆それらしい見た目になった。

「お、俺は……?」

 少年は、残された自分の武器・防具を手に取る。

 それは、ポラロイドカメラと、アロハシャツだった。

「……」

 いちおう、何かあるかもしれないと思い、着てみる。

 赤いハイビスカスの模様の上に、首から提げられた黒いカメラが揺れる。

 それだけで、何もない。

 別に、とつぜんその装備(?)が不思議な力で輝き出したりもしない。

 ただ、鏡に映った少年の姿は、じつに浮かれた観光客然としていた。

 表情を除いては……。

 その夜、少年は、夢の中で女神ロリに会った。

 観光客ツーリストについて尋ねる。

 ロリは、無言で首を振ったあと、

観光客ツーリストは、とくに特技はない。しいて言えば、誰でも就けるってことくらい」

「……ふ、ふざけんなよっ! こんな職業じゃ、活躍できないじゃないか!」

「それがお前の適性だから、仕方ない。うらむなら、ゲームばかりやって人生に倦んでいた自分をうらめ」

「うっ!? ……す、すいませんでした」

 少年は、あっという間にしおれる。図星だった。

「安心しろ。最弱職業でも、冒険者は冒険者。じゃ、がんばれ」

 と言い捨てて、さっと消えてしまう。少年は、夢の中でガックリとうなだれるしかなかった。アロハシャツとポラロイドカメラは、その日じゅうに川に流した。

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