第三章:次なる犠牲者
11
数週間前――冒険者達が、まだダンジョンに足を踏み入れる前のこと。
彼らは、王都アンヴェルダの王宮に勢ぞろいしていた。
「ではエルフ様、その方が……?」
「あぁ、そうだよ。この少年が、ロリ様の神託に選ばれた最後の冒険者、ヒューマンだ。さ、少年」
エルフは、少年の肩をぽんと叩いた。
彼は、ゆっくり前に進み出て、
「……ど、ども、ヒューマンです、よろしくお願いします! ち、地球って所から、美少女をゲットするために……ぃ~じゃなくって、ともかくダンジョン探索がんばります!」
生まれてはじめてナマで見るファンタジー種族たちに緊張し、少年のお辞儀はちょっと角ばっていた。
「まぁ、そんなに硬くならないで」
「は、はいっ!」
「なんだか、あれだ……今の君、トイレ我慢してるみたいだよ」
「ま、マジすか」
少年は、リラックスしようと肩をまわした。
「いやぁ、それにしても。みんなキレイにべつべつの種族になったね。これで八人目もエルフ族だったら、あたし隙を見て、夜道でばっさりヤっちゃってたかもね? 何せ、目立てないしね。アハハハっ!」
他の冒険者たちは、どっと吹きだした。少年も、すこし乾いた笑いを発する。
「少しは、緊張解けた?」
エルフは、少年にだけ聞こえる声でささやいた。
「え、えぇ……まぁ」
「なら良かった」
エルフは、からっと笑った。
(面白い人だなぁ……)
冒険者たちが静まると、彼女は、全員に紙を配り始める。
「八人そろったんで、ロリ様がみんなの
「む? わしの職業は
と、ドワーフが横柄に言った。
「うーん、そういう一般的な職業じゃなくって。冒険者として、パーティでどんな役割を担当するか? っていう意味みたいね」
「ほほう」
少年も、その名簿を受け取る。そこには、こう記されていた。
「エルフ・女
ドワーフ・男
「お、おぉ……!」
少年は、感動した。
どの種族も、それからどの職業も、ダンジョンRPGで見慣れたものばかりだ。
それに、ダンジョン探索に必要な職業はすべてそろっているように思える。
(うんうん。これなら、魔王だってそのうち、絶対倒せるな! よし、いい旅になりそうだ。……ん?)
少年は、名簿の最後に目を向けた。
そこには、彼自身のことが記されている。
「
彼は、目を皿のようにして眺める。
しかし、「観光客」という文字は、さっぱり変わらなかった。
「……は、はぁぁぁぁぁぁっ!? なんじゃこりゃぁ!?」
少年は吠えた。
「ん、どしたの? いきなり盛り上がっちゃって」
と、エルフが不思議そうに尋ねる。
「す、すいません、なんか俺のところ間違ってるんですけど! 変なこと書いてあるんですけどっ!」
「え? 別に間違ってないよ? いやぁ、
エルフは少年のことなど気にせず、他の冒険者たちに微笑んだ。
「ね、みんな。ロリ様が装備品も下さったよ。自分のを取っていってね」
と、床に置かれた武器・防具を指す。冒険者たちは、それぞれ真新しい武器を手に取った。
「ほほう、わしは斧か」
「おいらは短剣だね」
「あたちは、お星さまぁ☆」
「私は
そのほか、革製、鉄製の防具などを着込み、皆それらしい見た目になった。
「お、俺は……?」
少年は、残された自分の武器・防具を手に取る。
それは、ポラロイドカメラと、アロハシャツだった。
「……」
いちおう、何かあるかもしれないと思い、着てみる。
赤いハイビスカスの模様の上に、首から提げられた黒いカメラが揺れる。
それだけで、何もない。
別に、とつぜんその装備(?)が不思議な力で輝き出したりもしない。
ただ、鏡に映った少年の姿は、じつに浮かれた観光客然としていた。
表情を除いては……。
その夜、少年は、夢の中で女神ロリに会った。
ロリは、無言で首を振ったあと、
「
「……ふ、ふざけんなよっ! こんな職業じゃ、活躍できないじゃないか!」
「それがお前の適性だから、仕方ない。うらむなら、ゲームばかりやって人生に倦んでいた自分をうらめ」
「うっ!? ……す、すいませんでした」
少年は、あっという間にしおれる。図星だった。
「安心しろ。最弱職業でも、冒険者は冒険者。じゃ、がんばれ」
と言い捨てて、さっと消えてしまう。少年は、夢の中でガックリとうなだれるしかなかった。アロハシャツとポラロイドカメラは、その日じゅうに川に流した。
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