07

 ダンジョンの最奥部、地下十階で。

 女神ロリは、精神世界――夢の中に現れた。

 着物姿で、けん玉の穴の部分に指をつっこみ、ほじくって遊んでいる。

「おはよう。魔王」

「……話が違うぞ、女神」 

 開口一番、魔王はぶっきらぼうに言って、女神をにらんだ。

「冒険者どもの持つルビーのかけら、その1つは、私の物にしてよい――そういう約束だったはずだが」

「……お前は、何を言ってる」

 女神は、首をかしげた。

「私が約束したのは、冒険者のうち、一人を手にかけてもいいということだけ」

 言いながら、小さい両手で手刀を作り、無意味に振り回す女神。

「ルビーを手に入れられるかどうかは、魔王……お前自身の、器量の問題」

「……ふん」

 魔王は、あっさりと黙った。

 ハーフリンクにルビーを盗まれた――という点を恥じているのかもしれない。

 微妙に横を向いた彼に対し、ロリはわざわざ、トトトトッ……と移動した。

 彼の顔が見える位置に回りこむ。お尻を押さえてしゃがんだ。

「そんなことより、私の関心はあの地球の少年にある」

 女神ロリは、にまっと笑った。

「いっつもむらむらして、イライラして、悩んでばかりいる若い少年……やっぱり、冒険者に向いていた。すぐに、誘いに乗ってくれたし」

 女神がつぶやくと、知らん顔をしていた魔王は、はじめて鼻に深いしわを寄せた。女神に、鋭い視線を向ける。 

「そんな子には、成長の場所が必要。そう思わない?」

「……」

「お前には、まだ働いてもらう。その代わり、チャンスも与える。じゃあ魔王、頼んだから」

「……了解した」

 ロリがそう言うが早いが、魔王の夢の世界が崩壊していく。

 さっそく、彼は目を覚ましたらしい。今頃、いろいろと準備をしているのだろう。

 ロリは、けん玉を口に含んだ。

「……ヒューマン。この殺し合いで、お前はいったいどこまでがんばってくれる?」

 ぬちゃぬちゃと、玉を口の中で転がす。

「すぐに死んじゃう? 真ん中へんで死んじゃう? 最後のほうで死ぬ?」

 玉だけでなく、こんどは、けん玉の柄の部分まで口に入れる。

 親猫が、子猫の毛並みを整えるように、丁寧に舐めて――

「それとも……最後まで生き残る?」

 ――ついに、口からべっと吐き出した。

 よだれまみれのけん玉を、女神は上に掲げる。

「私は、どれもいいと思うけど。……ふぁいと、おーっ」

 相変わらず、やる気のなさそうに聞こえる応援を発して、女神は消えた。

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