03

「そ、そっか。バレちゃったか……。で、でもさ! 俺だって、まったく勉強してないわけじゃないよ!? ムダな努力がヤダってだけで……。ほら、ゲームの攻略法をサクッと調べてサクッとクリアみたいな感じでさ、学校も効率よく切り抜けらんないかな~って、いろいろ模索してるんだよ俺は!」

「……うるさい。セリフが読みにくい」

 女神ロリは、いやそうに手をしっしっと振った。

「あ、ご、ごめん……」

「言い訳が、必死過ぎ」

「……ゴメン」

「そういうことは、私じゃなくてお前の親にいえ。ちょくせつ」

 グサグサと、幼女神おさなめがみの容赦ない言葉が少年の心臓をえぐる。

「うわああああぁぁぁぁぁっ! お父さんお母さんっ、生まれてきてごめんなさいぃぃっ!」

 彼はたまらず四つんばいになった。

 女神は気にせず、少年の尻に向かって話し続ける。

「魔王をやっつけたら、その後は地球に帰ってくれてもいい。ダンジョンにお宝があったら、自分のものにしていいし。……それに、今のお前でさえ、アンヴェルダの人から見れば、めったにいないツワモノ。鍛えたら、伝説の勇者クラスにもなれる。そうなれば、きっと向こうで、女の子も選び放題」

 びっ! と、女神ロリは、けん玉のとがった先端を突き出した。

「えっ、それマジ!?」

 急に、少年は立ち上がる。

 鼻息が荒くなったせいで、鼻くそが吹き出てしまった。 

「……マジ」 

 女神ロリは、顔をしかめた後、

「どの種族の女でも構わない。ダンジョンを制覇した英雄なら、妻になりたいって娘はいくらでもいる。と思う」

「う、うぉぉぉぉぉぉっ!」

 少年は、うなり声を上げてしまった。

 刹那、いろんな種族の「美少女」の姿が、彼の妄想の中に次々と浮かんでは消える。

(お、俺は……やっぱり、エルフの美少女がいいかなぁ……!)

 金髪で肌が白く、耳がとんがっている――という、典型的なエルフの女性が、少年の頭の中で微笑んだ。

「……この地球で、苦手な受験勉強をしても、大した結果は出せない。それよりも、自分の才能を異世界で活かすほうが、かしこい」

「う、ぅっ……!」 

 彼のてんびんの片方に、バンバン重りがのっけられる。いまにも、傾いて倒れそうだった。

 そして女神は無慈悲にも、天びんごとこなごなに砕くような一撃を喰らわせる。

「……これが、最後のチャンス。期間限定。いま、私に出会っているお前だけに。こんな機会、ほかの所では無い。幸運の女神には、前髪しか生えてない……私は、後ろも生えてるけど」

 ロリは、おかっぱ頭の後頭部を、さすった。

 流し目で少年を見つめ、

「で、どうする?」

「……行きますっ!」

 少年は、元気に手を上げた。

 受験勉強する時には考えられないくらい、少年の体は熱くなる。思わず、無意味に足踏みしていた。

「では……この聖なるルビーを手にとれ」

 女神ロリは、手に赤い宝石のかけらのようなものを差し出した。

「これを体に取り込めば、お前は私の加護を受ける。冒険者となって、アンヴェルダへワープできる。さぁ」

「おぉ、分かった!」

 少年は、意気揚々とルビーを手に取った。

 すると、彼の左手の甲が、赤く輝き始める。

 次第に、赤い模様が浮かび上がってきた。同時に、ルビーも彼の体の中に取り込まれる。

「うわ、わ!?」

「フ……これで、実験台がそろった」

 女神は、ぼそっと言った。

「え、何か言った?」

「何も」

 最後まで、女神は無表情のまま。手の代わりに、けん玉を振る。

「行ってこい、ヒューマン」

「あ、あぁ。俺がんばるよ!」

「……お前の旅路に、不幸多からんことを」

「な、なんてこと言うんだオメー!?」

 それを最後に、少年の意識と体は、地球上から消滅した。

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