02

 数日前。

 少年が、自宅のベッドで眠りについたかと思うと……

「おはよう。突然だけど、私たちを助けて欲しい」

 夢の中に、とつぜん、幼い女の子が現れた。

 年齢は4、5歳ほど。おかっぱ頭で、着物を着ている。

 無表情で、少年をじっと見ていた。

「いま、お前の力が必要」

「え? えっと……君は、誰?」

「私は、女神ロリ=リロという」

 女の子は、抑揚のない調子で名乗る。

「ロリ、と呼んで」

 「女神」というよりは、座敷童子のような容姿。

 それから、風変わりな名前。

「……ええっと」

 少年は頬をつねった。

(い、痛くない……? じゃあ、やっぱ夢か)

 こんな変な夢は止めて、さっさと寝よう――と、夢の中で、少年はふたたび体を横たえる。

「寝ちゃだめ」

「いたっ!?」

 すると「女神」とやらは、手にしたけん玉で少年をぶってきた。

 仕方なく、彼は着物の幼女に向き合う。

「あのね、お嬢ちゃん。けん玉は武器じゃないんだよ? 人に向けちゃだめだぞ」

「……」

 と言って聞かせても、ロリは黙って、頬を膨らませているばかりだった。

「あ、あの」

「……」

 ロリは、けん玉の球を持って、びっびっと引っ張った。

「これ以上余計なことを言うと、お前の頭をこのけん玉みたいに引きちぎるぞ」というメッセージだろうか。

 少年はぞくっとし、

「……ま、まぁ、夢の中なら、話くらい聞いておこうかな? どうせ寝てるんだし」

「うん」

 女神ロリは、あっさり無表情に戻った。

 コホンと、喉を鳴らす。

「私は、女神ロリ。『アンヴェルダ』という異世界の創造者」

 ――そして、彼女はアンヴェルダについて語った。

 そこは、エルフ、ドワーフ、小人族、妖精など、地球で言う空想上の種族が平和に暮らしていた世界。

 しかし、とつぜん出現した「魔王」という者により、ダンジョンが築かれてしまった。モンスターが解き放たれて、住人は困っている――のだという。

 女神は、少年を指差した。

人間ヒューマン。お前は、ダンジョンを題材にしたゲーム……『ダンジョンRPG』というものが好き……なはず?」

 少年は、ビックリしてうなずいた。

 確かに、彼はその手のゲームがすきだった。部屋の棚のほとんどが、それで埋めつくされているほど。

「そうだろう。ダンジョンに親しみがあるなら、ちょうど良い。じつは、お前に、アンヴェルダで冒険者となって欲しい」

「うぉぉぉっ……!?」

 少年は目を輝かせた。

「ほ、ほんと? ほんとに俺でいいの?」

「むしろ、お前がいい」

「ま、マジで!? でも俺、戦ったこととかないけど……」

 一瞬、モンスターが牙を剥いて襲い掛かってくる姿を想像してしまう。彼は、首をさすった。

「だいじょうぶ」

 ロリは、少年の後ろに回りこんだ。

 背伸びして、けん玉で後頭部をコンコン叩いてくる。とくに、痛くはない。

「え、えーと、何?」

「脳みそがつまっているか、確かめた」

「つまってるに決まってるだろ!?」

「なら、だいじょうぶ」

 女神ロリは、うなずいた。あまりにも無表情なので、ジョークなのか本気なのか分からない。

「アンヴェルダの人たちは、戦い方を知らない。けどお前なら戦えるはず」

「そ、そうかな」

 少年は、ちょっと鼻を上げた。

「俺みたいな、普通の高校生でも?」 

「……まあ、たぶん」

「多分!?」

「それに、お前はこの地球という世界を離れたがってた。勉強を嫌って、家でゲームばかりやって、現実逃避してる」

「ぎくっ……! なぜそれを!?」

 少年は、自分の口で効果音を発した。

「私は、なんでもお見通し」 

 女神ロリは、けん玉を持ったまま、両手でピースサインをした。

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