TRPGをつくろう!

創 智空

000.プロローグ

「……というわけで、今回のセッションは終了となります。お疲れ様でした」

「「「「お疲れ様でしたー」」」」

「はえー今回も楽しかったー!」

「楽しんでいただけたようで何より」


 ここは私立Y大学クラブハウス棟2階のゲーム研究同好会研究室。

平たく言うとゲーム好きが集まったサークルのサー室だ。

活動内容はというと、集まってゲームしたりゲームについて話したり。まるで誰かの家に集まって友達同士ゲームをしてるようなフランクな雰囲気をかもし出している。活動時間も便宜上設けているが実質は特に決まっておらず、出欠自由で、サークル存続のために幽霊部員大歓迎なんて噂まで立っている。


 やるゲームはというと、テレビゲームなどのコンシューマーゲーム、PCゲームはもちろん、トランプなどの卓上ゲーム、TCGやらなんやら、さらにはテーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム――通称TRPG。申し訳ないがここでは説明を省かせていただく――なんかもやる。

個人によって好き嫌い、得意不得意があるため、それぞれの好みのゲームごとに集まったりとそこは自由。軽く派閥のような構図をとることになるが、別に派閥間で何かがあるわけではない。


 そんなテキトーなサークルで、最近、TRPGに熱を上げている5人組のグループがあった。


 今日もサー室の一角で机を囲み、サイコロを転がして盛り上がっていたらしい。今しがたお疲れ様の声とともにゲーム自体は終わったようだが、その興奮は冷めやらぬ、といった様子でアフタートークを繰り広げている。


「はーこれであたしのキャラも最後のクラスチェンジか。成長しきった感あるー」

「数字だけで見るとまだ天井は見てないけどな」

「まあねー。でもこの最後のクラスチェンジが終わると、このキャラの死ぬまでが決まったようなもんじゃない? 最後になるのはそういうクラスだしさ」

「それには同感やなー」

「感覚的には、もう魔王倒して世界を救い終わった勇者みたいな?」

「面白い例えをするね」

「あーでもその感じかも!」

『最後のクラスチェンジをするキャラクター』を使っている女が、何やら言いたげにそわそわし始めた。

それに気づいた、先ほどまでゲームを取り仕切っていた――ゲームマスター、GMという役割を担っていた――別の女が、どうしたのと尋ねる。


「今年のアレさ、――TRPGの、システム作りにしない?」


「「「「は?」」」」

他の4人が同時に素っ頓狂な声をあげる。息ぴったりだ。


 アレ、というのは、サークルの会誌のことだ。

運営現状はテキトーでも、一応大学に認められた上で部屋を貸し与えられている団体であるため、ただゲームをしていました、というだけでは部屋を取り上げられてしまう。

部屋がないと困る人もいるので、年に1回、その年のゲームの流行調査や、ゲーム・ゲーム業界に関する考察・推測などをまとめた会誌を発行し、大学に『研究成果』として提出することになっているのだ。

各々個人でもよいしグループを組んで連名でもよいので必ず提出する決まりになっている。つまり完全な幽霊部員は不可能ということだ。

余談だが、中々的を射た内容の記事もあがってくるため、一部の教授や職員にはこれを楽しみにしている人もいるとかいないとか。

世界を救い終わった勇者のような気分の女は、それにTRPGのシステムをつくって載せようと言い出したのである。


「ほら、卒業研究ならぬ卒業制作みたいな感じでさ! ありでしょ、どうよサークル長どの」

「過去にTRPGシステムを載せていた先輩方もいらっしゃるし、アリではあるね」

「いやいや待てって。それ俺も見たけど1ページシステムを数種類だったよな? コイツがこのタイミングで言い出すって事は……」

「1ページシステム? とんでもない! あたしはアリ○ンロッドRPGのようなシステムが作りたいのよ」

「バカだな」

「即答!? だって今年度はじまったばっかだし、いけるって!」

「アホやな」

「酷くない?」

「こうなることを予見するとは、幼馴染おそるべし」

GMをやっていた女サークル長はこめかみを抑えて唸る。


「まーでも作りたいって気持ちはわかるわ。こうして長いこと共に冒険してきたキャラクターが、成長しきったと感じたとたんどっか行くような感覚になって寂しいし」

関西弁のような訛った喋り方をする女が同意を示す。

「僕はそろそろ、F○やドラ○エみたいな世界観のみじゃなくて、ダ○ソやス○イリムのようなダークファンタジー的な冒険譚も楽しみたいね」

「俺は異世界ファンタジーものだとほぼ確実に戦ってなんぼ、冒険してなんぼ、というかそれ以外無いですっていうのを何とかして欲しいかな」

「なんだ、みんな結構乗り気じゃない」


はあ、とサークル長が溜息を1つ吐き、わかった、と呟いた。


「システム作り、やってやろうじゃん」

「そうこなくっちゃ!」

「規模が規模だから時間に猶予は無いと見て動かなきゃね。ということで次に集まるまでに、どういうシステムが欲しいとか、これまでのシステムに対して感じた課題とかそれぞれ考えてきて」

「「「「りょうかーい」」」」

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