転。
二人は山の麓に空いていた大きな洞窟の前に立っていた。
「この穴の奥から聞こえる」
サーバルちゃんは聞き耳を立てて言う。
「何かの歌みたい」
「歌……うん、確かにボクにも聞こえる」
「いってみよう! 歌を歌うフレンズだったら鳥のフレンズだよ!」
サーバルちゃんはわくわくしながら洞窟の奥へ行く。かばんちゃんはおそるおそる付いていった。
薄暗い洞窟の奥をしばらく進むと、やがて大きく開いた広間へと着いた。
するとその広間の奥では、暗がりの中である集団が両手に光るモノを持って踊っていたのである。
「あのフレンズたちが歌っていたんだね! おーい!」
サーバルちゃんは警戒せず集団に声をかけた。
するとその集団は声に気づいて踊るのをやめ、二人のほうへ振り向いた。
「ぶひ?」
集団の一人が奇妙な声を発する。声だけでは無い、その集団からは奇妙な熱気のようなモノを感じられた。
暗がりでよく見えないかばんちゃんだったが、何か嫌な予感がした。
「あれ?」
夜目の利くサーバルちゃんはその集団を見てある事に気づいた。
「かばんちゃん! すごいすごいよ! かばんちゃんが沢山いる!」
「え?」
かばんちゃんは酷く困惑した。
「ど、どういうこと?」
「ぶひぃ」
「ぶぅ」
かばんちゃんは集団が発する奇声を耳にして戸惑いながらサーバルちゃんに訊いた。
「だってあのフレンズたち、かばんちゃんたちと同じかばん背負ってる!」
「か、かばん?」
ようやく夜目に慣れたかばんちゃんが目を凝らして集団の容貌を確かめる。
確かにその丸っこい集団は背中にリュックサックを背負っていた。
「もしかするとあなたたち、かばんちゃんたちの仲間なの?!」
サーバルちゃんは集団のほうへ駆け寄った。
しかしその足は途中で止まった。
「――」
サーバルちゃんが歩みを止めたのは、その集団から感じた異様な気配にようやく気づいたからである。
いや、のんき者のサーバルちゃんをして、本能が危険を察知したのだ。
「……ぶひぃ」
「……ネコミミ」
「……ケモミミだ」
「……尊い」
「さ、サーバルちゃん、何か様子が変だよ?」
「で、でも、みんなかばんちゃんと同じ姿してる」
「ぼ、ボク、頭にバンダナなんて巻かないし、指貫グローブでサイリウム握りしめてヲタ芸なんてしないよ!」
恐怖であった。その集団から注がれている視線が異様に熱く、かばんちゃんは記憶の底に眠ったままの単語の羅列を恐怖心によってサルベージされ、悲鳴のように連発しながら後ずさり始めた。
「尊い」
「尊い」
「ケモミミ尊みある」
「萌え」
「萌えー」
集団から発せられる呪詛のような声に、サーバルちゃんも流石に恐怖から後ずさり始めた。
「……こ、こんなの、ふ、フレンズと違う」
「逃げよう、サーバルちゃん!」
かばんちゃんが叫ぶとサーバルちゃんはその場からジャンプして逃げ出した。かばんちゃんもその場から慌てて広間の外へ逃げ出そうとする。
「ケモミミ、いっちゃう」
「追いかけよう」
「追いかけよう」
すると集団がふたりを追い始めたではないか。かばんちゃんとサーバルちゃんは死にものぐるいで駆け出した。
「何なのアレ!? セルリアン?」
「あんな怖いの、セルリアン以上だよ!」
二人は出口を目指して駆け出す。その後を奇声と喘ぎ声を上げながら集団が追いかけてくる。なんと恐ろしい光景であろう。
集団の足が思いのほか遅い事が幸いし、二人は何とか外へ出られた。
ところがその二人の前に、巨大な物体が立ちふさがっていた。
「セルリアン!?」
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