出会い

桜はもう散り、この時期でもう初夏のように暖かかった4月。

2年3組の教室で新年度を迎える生徒のために準備を着々と進めていた男がいた。

教師になって2年目になる教師、森本 直志だった。

「これとこれはこっちで…それは後で封筒に入れて…給食費袋はこっちでまとめて…よしっ!」

2年目にして異例で担任を初めてすることになった直志。

どの教師よりも早く準備を始めたがスピードはどの教師より遅かった。

「やばいなぁ…明日までに終わるかな…」

直志は名簿と配布物を見ながら深くため息をついた。

「こんな所にいたんですか?森本先生。」

教室の後ろの出入口から顔を覗かせてそう言ったのは教頭の三河内 雄二だった。

「教頭先生。どうなされたんですか?」

直志がそう尋ねると三河内は教室に入りドアを閉めて直志に近づいてきた。

「いやぁ、実はね…」

三河内はかなり深刻そうに言った。

「君のクラスにちょっと問題のある子が入ることになっちゃってね…申し訳ないんだけど…その…担任を降りてもらえると…ね?」

三河内が気まずそうに言った。

「どうしてですか!?」

当然のリアクションを直志がとった。

しかし三河内は口ごもってしまった。

「私は問題があろうとなかろうと構いません!教師として対処していく所存です!」

そう直志が豪語した。

「うーん…君がそういうなら…わかった。教育委員会には私からなんとか言っておこう。」

そう言うと残り少ない髪の毛のある頭をかきながら教室の外に出た。

「豪語しちゃったけど…教育委員会からそう言われるほどの子なのかな…まさか、非行だらけの少年とか…?」

直志が悪い妄想を膨らませながら準備を進めていった。


始業式当日、直志はドキドキしながら、また想像しながらスーツ姿で職員室にいた。

8時5分、この時間にホームルームを始めるため、先生達は配布物を抱え教室に向かった。

(どんな子だろう…机に足組み乗っけていきなりタバコ吸ってたりして…まさかね…)

職員室で膨らませた悪い少年の幻影をもっと膨らませながら廊下を歩いた。

震える手を抑えながらドアを開けてなるべく生徒を見ないように教壇に荷物を下ろし、恐る恐る生徒を見た。

(あれ…?)

直志が少し驚いた。

そんな悪そうなヤンチャそうな少年は居なかった。

逆に頭良さそうな子が多かった。

「全員起立!」

ホッとした直志はそう号令をかけた。

「気を付け!礼!」

『お願いします!』

「はい、座っていいよ。」

ごく普通な教室の雰囲気だった。

「今日からこのクラスの担任になります、森本 直志といいます。このクラスを含めて全クラスの社会科を担当します、よろしくお願いします。」

(教頭先生が言ってた子って誰だろう…)

自己紹介しながら教室を見渡してさそう考えながらホームルームを進めていった。

「あとは委員決めるだけだけど、今から体育館で始業式するから、戻ってきたら決めることにします。それまでにどの委員になるか決めておいてください。」

『はーい』

生徒はみんなバラバラだが体育館に向かった。

「森本先生、ちょっと…」

そう直志に声をかけたのは養護教諭の村上 美子よしこ先生だった。

「女子2番の井口 朱里ちゃんなんですけど…人込みが苦手でいつも体育館後ろで参加してますんで把握お願いします。」

直志はそう言われ名簿で確認した。

「後ろに居させておけばいいんですね?了解です。」

そういい体育館に向かった。

直志が体育館に入ると村上の言う通り女子が1人後ろの壁にもたれかかるように体育座りで座っていた。

一人分ほどのスペースを空けて隣に直志が座った。

すると、朱里が右手に持っていた八つ折りの紙を床に滑らせるようにして直志の左手に当てた。

「なにこれ?」

と言いながら直志が掴むと誰かに右腕を引っ張られ体育館の外へ出された。

「何するんですか!?」

そういう相手はロングヘアの女性だった。

「森本先生、朱里ちゃんにすぐ近づいちゃダメですよ!」

女性がそう言った。

「確か…福田 萌花もか先生でしたね?なぜですか?」

直志がそう聞いた。

「えー、皆さん揃いましたかな?」

萌花が言おうとしたとき体育館で校長の声が聞こえた。

「また後で話しましょう。」

と直志が言い2人は中に戻った。

直志は萌花の言ったことが気になり、さっきより少し距離を置いて座った。

始業式は着々と進み5分早く終わった。

「はい、2年生!1、2、3組は横のドアから!3年生は…」

体育教師の和田 寛治かんじ先生がマイクなのに声を張り上げて退館指示を出していた。

「井口さん、教室戻ろうか。」

そう言われて朱里は静かに立ち上がり体育館を出た。

ホームルームが終わり終礼をした。

「明日は8時5分からで、明日から授業がありますので忘れ物がないようにしてくださいね!」

『はーい』

「じゃあ…学級委員!号令を。」

そう言うと学級委員の太田 優希ゆうきに指示を出した。

「起立!気を付け!礼!」

『さようなら!』

「はい、さようなら!気を付けて帰れよ!」

そう言いながら荷物をまとめた。

そのとき、朱里から受け取った紙を思い出した。

全員帰ったようだったため広げてみた。

『大切な人、

好きな人を置いて、

決して諦めなかったのに、

天に召された。

天からの主示おもしめし

大きな使命、

変わらない運命、

知らないでは済まない、

手を差し伸べても助からない、

悔しい、

冷静ではいられない。

私は憎しみしかない。』

そう書かれていた。

「なんだこれ?」

直志は少し悩んだように手紙を見つめていた。

「先生」

幼めの声が聞こえた。

その声の主は教室のドアに寄りかかるように立っていた。

その少女は美魔女と言うにほか無い容姿だった。

「秘密を守る条件でお話があります。」

それはある意味未知との遭遇だった。

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私と先生 來紀 @akari1225

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