第13.5話 短編「ネコドルフィンとサツキのお家」
「ニュイ~」
「何この……なに?」
玄関の扉を開けた進次郎の前に現れた生き物が、可愛らしい声で鳴いた。
その生き物は人の頭くらいの大きさの丸っこいフォルムをしており、一見すると黄色い身体に目を細めた猫のような顔と耳を持っているが、前足はアザラシの手のような形状をしており、後ろ足に至っては魚の尾びれのような形状をしている。
修学旅行から帰ってきて数日後。
進次郎はサツキに招かれて、初めて彼女の家に遊びに来ていた。
玄関で待ち受けていた見たことのない謎生物は、進次郎の目の前で高く飛び上がり、廊下の奥から姿を表したサツキの頭の上に着地する。
「進次郎さん、いらっしゃい~」
「ねえサツキちゃん、そのナマモノは一体……?」
「ナマモノ? ああ、この子はヘルヴァニアの生き物のネコドルフィンらしいですよ! 昨日、川辺でお腹をすかせていたので飼うことにしたんです! 名前はネコドルにしました!」
「ね、ネコドルフィン?」
確かに、言われてみればこの生き物は猫の顔をした胴体の短いイルカにも見えなくはない。
ニュイニュイとサツキの頭の上で鳴く姿は、人になついた猫にも思える。
「……あっ! 玄関に立たせっぱなしですみません! 進次郎さん、どうぞあがってください!」
「あ、ああ……」
頭にネコドルを乗せたままのサツキに案内され、進次郎はサツキの家へと足を踏み入れた。
※ ※ ※
「へぇ、意外と普通のお部屋だな。女の子っぽくて、僕は好きだよ」
「ありがとうございます!」
てっきり水金族の家だからと珍妙な内装を想像していた進次郎であったが、サツキの部屋の中はそんなことはなく、普通の家具が並んだワンルームの部屋だった。
小さな机にイスがひとつしか無かったので、とりあえず部屋の端にあったベッドに腰掛け一息つく進次郎。
その姿を見たサツキが、ハッとした表情をして口を開いた。
「進次郎さんの分のイスがありませんでしたね。えーっと……ヘンサス、椅子になってください」
サツキが窓際の棚にそう言うと、その棚がグネグネと形状を変化させ、やがてひとつのイスへと変貌した。
「……!?」
「はいどうぞ、座ってください! あと、ロクナはネコドルちゃんの食べ物をだしてくださいね」
今度は食器棚にサツキが指示すると、食器棚の表面が盛り上がり、やがてキャットフードの缶詰が生み出されてポトリとサツキの手の中へと落ちた。
「ちょっっっと!! サツキちゃん待って! 天才の僕の理解が追いつかないほどの怪現象が起こっているんだが!?」
「何を驚いているんですか進次郎さん? 私の擬態、見慣れているでしょう?」
「そうじゃなくって! もしかして、この家の家具って全部……水金族なのか!?」
「はい! そこの冷蔵庫はマガルって名前で、シンクはヨーグ、照明はアカルスって名前の水金族です!」
背筋が凍るようにゾッとする進次郎。
その背後では、いつの間にかベッドが横に広がりシングルベッドからダブルベッドへと変化し、枕が増殖していた。
サツキとふたりで寝ろ、とでも言っているようだ。
「あらあら、オーモンったら。まだ私は寝ませんよ~」
「……サツキちゃん、外に遊びに行こうか」
「いいですね! ネコドルちゃんのお散歩にも行かないといけないし! ネコドルちゃん、お出かけしましょう!」
身の危険を感じた進次郎は、飛び出すようにサツキの家から脱出した。
以後、進次郎がサツキの家で遊ぶことは二度と無かったという……。
「おさんぽニュイ~!」
「……喋った!?」
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