ことりのこい
目を覚ましたそこは、凍てつくような闇の中。
どうしてこんなところにいるんだろう…
ああ、思い出してきた…
みんなと一緒に南の国に行きたかったのに、私だけ翼が傷ついてうまく飛べなかった。
それでも途中まではなんとか飛んでいたけれど、とうとう力尽きて地に落ちてしまったんだった。
ここは土の中に掘られた通路らしい。落下してからどうやってここに来たのかは…まだ思い出せない。
思い出せても思い出せなくても、ここが暗くて寒いことと、もう動けないことに変わりはない。
誰も助けてなんてくれない。ただ横になって死を待つだけ…
あれ。
いつの間にか身体には干し草でできたふわふわの毛布がかけられていて、頭には葉っぱが数枚置かれていた。
一体、誰が…
うっすらとしか開かない目に映ったのは、人間の親指くらいの、小さな小さな彼女だった。
冬の間、彼女はずっと私の看病をしてくれた。私たちは、毎日楽しく語り合った。
彼女の大好きなお日さまや花々のこと。彼女の生い立ちやここにやってくるまでのこと。本当にいろいろなことを。
おかげで私は、春には前のように飛べるようになっていた。
一緒に南の国に行きませんかと誘ったけど、彼女は首を横に振った。
共に暮らしているおばあさんを1人にしたくないという、彼女らしい理由だった。
別れを告げて空へ飛び立った。
ふと、今までに感じたことのない妙な気分になっているのに気が付いた。
何かが抜けたような、虚しい気分。
重い物が胸につかえていて、今にも涙がこぼれ落ちそうな気分。
そうか、私は彼女に恋をしているんだ。離れたくなかったんだ。
でも、もう会えないわけじゃない。きっとまた会えるから、寂しいけど、平気。
お日さまは、何も知らずに私を照らし続けていた。
季節は巡り、冬がもうすぐそこまでやってくる頃。
私は空の上から、一人悲しそうに佇む彼女を見つけ、地面に降り立った。
彼女は私との再会を喜び、悲しそうにしていた理由を教えてくれた。
好きでもない相手と結婚させられること。その相手はお日さまが嫌いで、結婚したら地中深くに住まなければならないこと。お日さまや花々を見られなくなるのが辛くてたまらないこと…
―あの暗く寒い通路から、私を再び明るい世界に連れ出してくれたのは誰だった?―
いてもたってもいられなくて、思わず以前と同じことを口走っていた。
「一緒に南の国に行きませんか」
彼女は、今度は首を縦に振った。
背中に乗った彼女が、生まれて初めて見る空からの景色に上げる歓声を耳にしながら私は思う。
あんな結婚、彼女が幸せになれるわけがない。
彼女にはいつまでも、お日さまの下で、大好きな花々に囲まれて幸せに暮らしてほしい。
いや、もっと言えば、私が彼女を幸せにしたい。
あなたが幸せになるためなら、どんなことだって惜しみません。
飛んで飛んで、暖かくて明るくてかぐわしい南の国に到着した。
大きな花の上に彼女をそっと降ろすと、そこには人間の親指くらいの、小さな小さな王子様がいた。
彼女と王子様は、ほほえんで見つめ合っていた。
彼女は私が今までに見たことがないくらい幸せそうな表情をしていた。
そうか、あなたはその方に恋をしたんですね。
おめでとうございます。これからはその方が、あなたを幸せにしてくれるんですね。
こんなにもあなたを幸せそうな顔にしてあげられる方なんですから。
私にはできなかったことをこんなにも簡単にできる方なんですから。
本当に好きな相手のそばにいれば、本当に幸せになれるんですから。
あなたが幸せになるためなら、どんなことだって惜しみません。
2人のためにお祝いの歌を歌った。悲しみもあったけど、精一杯隠して。
私の恋は叶わなかった。
でも良かったんです。だって私はあなたに幸せになってほしかったんですから。
あなたが幸せになるための歌を、歌い続けよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます