No one can say it

「あのさ、本当に大丈夫なのか?」

「何が?」

「俺らここまでの『お偉いさん』ターゲットにしたことないし、こんなすごい城見てたら緊張してきちゃったというか…」

「なーに自信なくしてんの。今までずっとうまくやってきたんだ。僕と君なら大丈夫だって。それに、どうせ本当のことなんて誰も」

「言えやしない、よな… よし、頑張るぞ!」

「うん!」




「あーはっはっはっはっ!」

「はははは、いやー、お前の言う通りだったよ。それにしたってここまでうまくいくとはな」

「あの大臣もあの役人も、見えるフリしてたね。必死で『素敵な布じゃな』とか何とか言ってたよね。嘘なのバレバレなのにさあ」

「よっぽどバカな奴か、ふさわしくない仕事してる奴だと思われたくないんだろうな」

「そんな布存在するわけがないんだから、こっちからしたら滑稽にしか思えないけどね」

「あ、そうだ。また『布織るのに必要だから』って嘘ついて金の糸と高級な絹もらってくるわ」

「いっぱいもらってきなよ。だって、本当のことなんて誰も」

「言えやしないからな」




「ひゃーはっはっはっはっ!」

「ひひひひ、流石に! 流石にあれは!」

「やーばい、この国の国民ここまでやっても誰もつっこまないんだ。それどころかみんな褒めてるよ。『その新しい服、よくお似合いですよ』って!」

「国民だけじゃねえ、当の『お偉いさん』本人も見えるフリしてるんだぜ! 着替える時なんか傑作だったよな! 『どうだ、この服は私に似合ってるかね?』とか言って鏡の前で服に見とれてるフリまでしてさ!」

「僕らが『この服はクモの巣と同じくらい軽いから何も着てないように感じます』って言ったら『お偉いさん』も『本当に着てないみたいだ』って感心してたけど当然だよね。だって下着しか身につけてないんだから! 笑いこらえるのに必死だったよ!」

「そしてその下着一丁のまま家来達を連れて堂々と町を練り歩いているというね! わはははは!」

「みんなどんだけバカな人だとか、ふさわしくない仕事してる人だとか思われるのが嫌なんだろうね。他人にそう思われたくらいで死にゃしないのにさ。変なの」

「まあ、こんな国のことはもういいだろ。あのアホなパレードが終わる前に糸と絹持ってとっととずらかろうぜ」

「そうだね、万が一に備えてそろそろ逃げようか。ただ、本当はそんな焦る必要はないんだけどね。だって、本当のことなんて誰も」

「言えやしないもんな」

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