Kill the goose that loves you
ああ… そうだったんだね。
私の飼い主さんは、いつも私をかわいがってくれる。
「夜更かしをすると体調を崩して卵が産めなくなるよ。早くお休み」
飼い主さんは、いつもそう言って私が眠るまで頭を撫でてくれる。
「毎日ちゃんと卵を産めるように栄養を取らなきゃね」
そう言って美味しいものをたくさん食べさせてくれる。
そして、毎朝私が卵を産むとき、いっぱい褒めてくれる。
「君は本当にいい子だね。おかげですごく助かるよ」
私の産む卵はすごく価値があるらしい。
なんでかはよく分からないけど、多分、他のガチョウの卵と違ってキラキラ輝いていて綺麗だからなんだろうな。
嬉しそうな飼い主さんの顔を見て、私もいつも嬉しくなる。
こうして、ずっと飼い主さんと幸せに暮らしていきたいな。
「おいで、僕のかわいいガチョウさん」
あっ、いつもの優しい声で呼ばれた。
はーい、今行くよー。
私は、嬉しくて飼い主さんに駆け寄った。
急におなかが冷たくなった。
え?
飼い主さんが、ナイフで私のおなかをざくざくと切り開いていた。
だらーっと赤黒い液体が出てきて、地面を染めていく。
飼い主さんはナイフを置くと、私をひっくり返して仰向けにした。
できたばかりの大きな傷に無理やり手を差し入れ、ぐちゃぐちゃと何かを探すようにかき回し始める。
おなかの奥の奥にまで手が入り、中身をあちこち引っかかれる。
いつも暖かかった手が、今は生暖かい。
いつも優しかった笑顔が、今はニタニタしていて怖い。
なんで、なんで、痛いよ…
ああ… そうだったんだね。
飼い主さんは、1日1個の卵じゃ我慢できなくなったんだ。
私のおなかにはあの綺麗なものがたくさん入っていて、切り開けばいっぺんにたくさん取り出せると思ったんだ。
つまりあなたにとって大切だったのは、私じゃなかった。
あなたが見てたのは、私が産む卵だけだったんだ。
今まであなたは私自身を可愛がってくれてるんだと思ってた。
でもそうじゃなかった。
あなたが私を可愛がったのは、あの綺麗な卵を産んでほしかったから。
ただ、それだけだったんだ。
あなたにとって私は、卵を産むだけの「もの」も同然だったんだ。
私はあなたのこと、大好きだったのに。
ああ、飼い主さんが嘆いてる。
でもそれは、私を切ったことを後悔してるからじゃない。
もうすぐあの卵が手に入らなくなるのが悲しいだけだ。
そもそも、あんなのが体内にたくさん入ってたら私は重くて動けやしない。
欲に目がくらんで、もうそんなことも分からなくなってたんだね。
ゆっくりと視界が狭くなり、音も聞こえなくなっていく。
でも、まだ痛い。
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