銀河の梯子渡し
せい
第1話
「カスミ! あんま遠くいかないの!」
ってウタちゃんが言ったけど私、ぜんぜん耳に入ってなかった。
「ひゃっ、つめたい」
ってウタちゃんが、打ち寄せる波が足をあらうたびに言って、波から逃げるんだけど逃げられてなくて、けっきょく濡れてるのなんかおかしかった。
一歩ふみ出すたび、足の裏がさくりとしずむ。
踏みしめる砂は透明な硝子質で、風が撫でるたびサラサラ音をたてて、足の裏がくすぐったくって気持ちいい。
ふりむくと砂辺にのこる二組の足あと、だんだん波に掻き消える。水はつめたいけど風、湿っててすこしひんやりしてて……最近ずっと《舟》の中だったから、なんかこういう気分久しぶりですごく胸がスーッとした。
《舟》がこの恒星系を出発するにはまだまだ時間があるし、調査とか資源採掘とか、私たちの仕事だけど、《舟》のドローンがほとんどやってくれるし正直そんな仕事ない。
ウタちゃんは「久しぶだね。海のある星」
って言ったけど、そうだったかなあって思って
「二つ前によった星もあったよぉ」
って言って私反発した。
「違うよ。海の水、アンモニアとかシアンとかほとんど無くて普通にさわれる」
ウタちゃんが海の水をすくって見せる。
ああ、そういえば。
ウタちゃんの手のひらに顔を近づけると、ぱしゃって水かけられた。
「なにすんだ!」
ウタちゃん、あははってわらって海にの方へ逃げる。追いかける。
浅瀬で捕まえた。
打ち寄せる波、遠くからやってくるけど海、薄緑がかった青色でどこまでいっても浅瀬みたいでずっと向こう、水平線がぼんやり白んでた。水平線から登ってる一本の光の筋、天の川……ほうんとうはあれ、星々が集まって大きな渦になってて、私たちもその渦の中にいるから河みたいに見えるんだって知ってる……
ウタちゃんと手、繋いでぐるぐる独楽みたいにまわって、仰向けに寝転がと、波が耳に入ってきた。
見上げると、ほとんど頭上に天の川膨らんでるところがあって、あそこが銀河の中心だ。そこから天の川と直交して光の線が伸びてて、端が見えないくらい長い。
「銀河……」
私が言った。
「梯子渡し……」
ウタちゃんが言った。
銀河面と銀河中心から出るジェットがつくる、
夜空いっぱいに白くかがやく、巨大な十字架。
銀河。空に浮かぶ光はすべてひとつの大きな渦を作ってる。
誰だって知ってる。この宇宙には、たったひとつの銀河があるだけだ。
私たち《舟》の民は《梯子渡し》のために銀河の星々を巡っている。
でも、《梯子渡し》がいったい何なのか私知らないし、たぶん《舟》の誰も知らないと思う。
銀河の梯子渡し せい @seichan_0713
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